柔道整復学 理論編 肘部および前腕部 軟部組織損傷

肘部、前腕部の軟部組織損傷

肘関節周囲の解剖学

 

肘部 軟部組織損傷

1 靭帯の損傷

a.肘の側副靭帯損傷

発生概要
・MCLはスポーツ活動で多い
・瞬間にはたらくものと、繰り返しよる発生がある
発生機序
・過伸展⇒生理的外反も加わり、前方関節包、MCL
・投球ストレス(外反)⇒MCL
・内転強制or脱臼⇒LCL

 

症状
➀圧痛、疼痛、腫脹
➁運動制限⇒完全伸展、完全屈曲
中・高生⇒徐々に発生
長期間投球を行っている者⇒急に激痛

b.肘関節外側回旋不安定症

オドリスコルらによって提唱された肘関節の動揺性病態
確認
ラテラルピボットシフトテスト
肘関節に軸圧を加えながら回外・外反すると橈骨頭が後外側に脱臼・亜脱臼する

 

原因
外側尺側側副靭帯損傷が関与すると考えられている

2 野球肘

概要
野球肘と呼ばれるがゴルフやテニスでも発生する
成長期の野球肘はリトルリーガー肘ともいわれる

 

分類
(1) 内側型(内側上顆、前腕回内屈筋群、内側側副靭帯、尺骨神経)
(2) 外側型(上腕骨小頭、橈骨頭)
(3) 後方型(肘頭)

発生
(1)内側型
コッキング期から加速期にかけての肘外反力で前腕回内屈筋群が強く収縮し、MCLにより強い引っ張りストレスで発生。多くは内側型
内側上顆炎、内側上顆裂離骨折、前腕回内屈筋群損傷・内側側副靭帯による裂離骨折

(2)外側型
加速期からフォロースルー期にかけて肘に強い外反力がかかり上腕骨小頭と橈骨頭で圧迫力が加わる
離断性骨軟骨炎の発生

(3) 後方型
フォロースルー期のボールリリース後に肘過伸展となり肘頭と上腕骨肘頭窩にインピジメント

成長期:肘頭部骨端軟骨の成長障害
成人:疲労骨折、上腕三頭筋の炎症

症状
(1) 内側型
・内側上顆の疼痛、腫脹、軽度の肘伸展障害
・将来的に不安定性、遅発性尺骨神経麻痺
・内側上顆炎の場合、日常生活で物を持ち上げたり力を入れる動作で疼痛増強

(2) 外側型(離断性骨軟骨炎)
投球時に外側部の疼痛は軽い
関節遊離体(ネズミ)が生じた場合関節内ロック
将来的に、変形性関節症

(3) 後方型
肘頭との肘頭窩のインピジメント

治療法
将来性を考えて長期間の治療が必要になる
投球+打撃禁止
期間:最低でも3ヶ月禁止
スポーツ復帰:1年以上
状態により手術
具体的方法
➀精神的な不安感に対する助言・アドバイスが必要
➁投球動作を禁止。疼痛消失まで固定
➂痛みの感じる動作は避ける。それ以外の運動で患肢の筋萎縮と体力低下を予防
➃筋の再教育
予防
過剰投球の防止

小学生 中学生 高校生
1日あたり 50球 70球 100球
1週あたり 200球 350球 500球

 

3 テニス肘

バックハンド⇒上腕骨外側上顆炎
フォアハンド⇒上腕骨内側上顆炎
通称テニス肘といえば外側上顆炎を指す

 

(概要)
・40~50歳の女性、初心者に多い
・ゴルフ、バドミントンなど他種目や、手を良く使う仕事でも発生
(発生)
バックハンド正確にボールを捉えらず、衝撃をとくに短橈側手根伸筋で対抗しようとして発生
外側上顆部の伸筋群の微小断裂、骨膜炎
(症状)
・肘から前腕部にかけての疼痛、圧痛、局所の熱感
・回内位でものを持つ、タオルを絞る動作で悪化
※上腕部から痛むケースでは腕橈骨筋の障害も考える

(テスト)
➀椅子テスト(チェアーテスト)
➁手関節伸展テスト
③中指伸展テスト

(治療)
・手の使用を最小限にして安静にする
・テニス肘バンドを前腕伸筋腱起始部にまく
・技術の取得、ラケットの変更

4 その他の疾患

a. パンナー病
概説
5~10歳の男子に好発する上腕骨頭が壊死する骨端症のひとつ。
利き腕に多い
スポーツに関係なく発症

鑑別疾患
離断性骨軟骨炎

パンナー病:5~10歳。スポーツに 関係なく発生
離断性骨軟骨炎:13歳以上に多発。 野球選手に多い(特に投手)

b. 変形性肘関節症
発生
➀骨折、離断性骨軟骨炎の二次的に起こるもの
➁振動工具を長時間使用する仕事
➂長期間肘に負担をかえている仕事

症状
疼痛、腫脹、関節可動域制限、肘伸展屈曲、前腕回内・回外痛
しばしば肘部管症候群の合併

Ⅹ線
骨棘、骨硬化、関節裂隙狭小化

治療
基本は保存療法(安静、温熱など)
日常生活に支障を来すほどであれば手術

前腕部の軟部組織損傷

 

1 前腕コンパートメント症候群

概説
前腕部の三つの区画(屈筋群、伸筋群、橈側伸筋群)の区画内圧が上昇して血行不全・神経障害をおこし筋の機能不全を起こす。

最悪の場合⇒壊死
一番多いのは⇒屈筋群

 

発生
➀急性型
骨折、打撲、圧挫など外傷による筋内出血・浮腫により発生
メカニズム
内圧上昇、血管透過性の亢進⇒内圧さらに上昇で細動脈の閉塞と組織間液が増量しさらに内圧を上昇させる

➁慢性型
ウェイトトレーニング、オートバイレース、車いすレース、剣道等の運動を続けることで発生
メカニズム
筋膜の肥厚⇒区画が拡大できなくなる
長期間の筋トレ⇒筋肥大⇒区画圧迫

➂その他
緊縛包帯、ギプス圧迫

症状
➀急性型
初期症状:障害されたコンパートメントに一致した圧痛、自発痛、腫脹
障害を受けた筋を伸長すると⇒疼痛増強
進行期:硬く腫脹、手指屈曲位、感覚・運動マヒ・水泡形成
橈骨動脈の拍動⇒消失(必ずではない)
最終期:フォルクマン拘縮と同様の鷲手変形、手関節屈曲拘縮、前腕回内拘縮⇒不可逆的変性

部位の違いによる症状
屈筋群コンパートメント:指の他動伸展痛、正中・尺骨神経領域の感覚障害
伸筋群コンパートメント:指の他動屈曲痛、感覚障害は少ない

➁慢性型
・可逆性
・運動時のみ出現

治療法
➀急性型
・高挙、冷却し内圧の上昇を防ぐ
・包帯、ギプス装着していれば除去
⇒至急医療機関に搬送
➁慢性型
・冷却、安静、スポーツ休止
再発する要だったら対診

腱交差性症候群(インターセクションシンドローム)
概説
短母指伸筋、長母指外転筋、長・短橈側手根伸筋の交差部の機械的炎症
発生
手関節のオーバーワーク

症状
➀圧痛、腫脹
➁母指運動時の轢音、渥雪音が発生し疼痛増強
➂フィンケルスタインテスト(+)

※ドゲルバン病との鑑別が必要

3 末梢神経障害

a 正中神経障害

 

低位麻痺
➀支配領域の感覚障害
➁母指球筋の筋力低下・萎縮(猿手)
➂チネル徴候

高位麻痺
低位麻痺症状にプラスして
➀拇指、示指、中指の屈曲障害(祈祷肢位)
➁前腕回内運動障害

a-1 円回内筋症候群
概説
円回内筋両頭間、あるいは浅指屈筋起始部の腱性アーチでの正中神経絞扼

発生
・就業、スポーツでの回内・回外動作の繰り返し
・肘の屈伸の繰り返し

症状
➀疼痛⇒前腕掌側の鈍痛
➁正中神経領域のシビレ感、筋力低下、つまみ動作不自由
➂圧痛⇒円回内筋中枢縁
➃チネル(+)
誘発テストは陽性率低い

手根管症候群との鑑別が必要
手根管症候群
概説:絞扼神経障害で一番頻発。手根管内を通過する正中神経が圧迫されて発生
骨折、脱臼の合併症として発生することがあるが、多くは原因不明
女性に多い。閉経後に発症することがある

発生:トンネルの狭小化を招く要因
・変形性関節症
・関節リウマチ
・ガングリオン
・屈筋腱腱鞘炎
・脂肪腫
・透析によるアミロイド沈着

症状
➀第1~4指掌橈側半分までのシビレ⇒早朝に強く、手を振ると軽くなる
➁疼痛⇒手関節、手指
➂筋力低下(萎縮)⇒母指球
➃巧緻運動障害
⑤チネル、ファーレン(+)

a- 2 前骨間神経麻痺
概説
円回内筋症候群と同様、円回内筋、浅指屈筋起始部腱性アーチなどで絞扼される
前骨間神経:正中神経本幹から分岐する運動枝。感覚枝なし

症状
➀感覚障害⇒なし
➁方形回内筋、長母指屈筋、第2・3指の深指屈筋マヒ
➂tear drop outline ⇒ 第1IPと第2指DIPの屈曲不能

b 橈骨神経麻痺
概説
損傷高位は肘、手、手指の伸展運動で判断
➀手指MP伸展障害(下垂指)⇒低位マヒ(後骨間神経麻痺)
➁手指MP伸展障害+手関節伸展障害⇒中位マヒ
➂手指MP伸展障害+手関節伸展障害+肘伸展障害⇒上位マヒ

橈骨神経管:腕頭関節前面から回外筋遠位出口部
橈骨神経管症候群:橈骨神経深枝が圧迫を受けて発生。主訴は肘外側部の疼痛。外側上顆炎との鑑別が必要

b-1後骨間神経麻痺
橈骨神経深枝(運動枝)の単独マヒ
フローゼ腱弓(回外筋弓)部での圧迫
深枝の走行
短橈側手根伸筋、回外筋⇒フローゼ腱弓通過⇒前腕背側

発生
・モンテギア骨折
・使いすぎ
・ガングリオン、脂肪腫などによる圧迫

症状
➀手関節伸展力低下。撓屈しながらの伸展は可能(長橈側手根伸筋)
➁MP伸展不能(下垂指)
➂感覚障害⇒なし

治療法
原因動作の中止、局所の安静
改善なければ手術も適応となる

c-尺骨神経障害
概説
低位マヒ
➀小指球筋、骨間筋萎縮(指の内外転障害)
➁感覚障害
➂鈎爪指変形(鷲手)⇒環指、小指のMP過伸展、IP屈曲

高位マヒ
低位麻痺にプラス
➀手関節尺屈力低下
➁環指、薬指DIP屈曲不能(深指屈筋)

肘部管症候群とstruthers arcade 絞扼との鑑別

b- 1肘部管症候群
滑車上靭帯とオズボーン靭帯で形成されるトンネルで尺骨神経が絞扼されて発症
肘部管の構成:滑車上靭帯、オズボーン靭帯
尺骨神経の走行:尺骨神経溝⇒尺側手根屈筋の2つの起始の間を通過⇒掌側

発生
・外顆骨折後の外反肘
・上腕骨滑車形成不全、内反変形
・尺骨神経溝からの逸脱
・長時間の屈曲位保持
・ガングリオン

症状
➀尺骨神経領域のシビレ、肘内側の痛み
➁尺側手根屈筋、第4、5深指屈筋、手内在筋の萎縮
⇒ピンチ力低下、鷲手変形、フローマン徴候
➂巧緻運動障害
➃肘屈曲テスト(+)

尺骨神経管症候群(ギヨン管)との鑑別が必要

治療法
原因動作の中止、局部の安静
症状改善みられない場合⇒手術

ギヨン管症候群
概説:ギヨン管(尺骨神経管)部での神経絞扼によって発生
ギヨン管の構成:豆状骨、有鉤骨鈎、掌側手根靭帯

発生
・手指部の打撲
・サイクリング
・ハンドルでの長時間の圧迫
・手を衝くスポーツ
・ガングリオン

症状
➀4、5指のシビレ感、疼痛
➁鈎爪指変形、フローマン徴候
➂巧緻運動障害
➃感覚障害⇒手の掌尺側
※手背尺側は免れる

治療法
原因動作の中止、局部の安静
症状改善みられない場合⇒手術

 

fukuchan

柔道整復師、鍼灸師、医薬品登録販売者として治療院を開業しています。 柔道整復師、鍼灸師を目指す学生さん向けに、オリジナルイラストを使って教科書をわかりやすくして発信しています。

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