柔道整復学 理論編 肩関節脱臼
肩関節脱臼
肩関節の基本解剖学
肩関節の種類 7関節
➀肋骨頭関節、肋横突関節(肋骨と脊柱との関節)
➁胸鎖関節
➂胸肋関節
➃肩甲胸郭関節(肩甲骨と胸郭)
⑤肩甲上腕関節
⑥第二肩関節(烏口肩峰アーチ、肩峰下滑液包、大結節、腱板)
⑦肩鎖関節
・球関節(3軸性)
・ローテーターカフが求心位に保つ
棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋
肩関節脱臼の概要
肩関節脱臼の発生頻度が高い理由
➀骨頭に対して関節窩が浅い(3:1もしくは4:1)
➁各方向に対して広い可動域
➂関節包、補強靭帯のゆるみ
補強靭帯
・烏口上腕靭帯
・関節上腕靭帯
・烏口肩峰靭帯
➃関節の固定を筋に依存
棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋などのローテターカフ
⑤突出して外力を受けやすい
(分類)前方脱臼が最多
➀前方脱臼(烏口下脱臼、鎖骨下脱臼)
➁後方脱臼(肩峰下脱臼、棘下脱臼)
➂下方脱臼(腋窩脱臼、関節窩下脱臼)
➃上方脱臼(烏口突起上脱臼)
肩関節前方脱臼
(発生)
直達外力
後方からの外力
介達外力
➀墜落、転落で手掌をつき、肩関節過伸展
➁過度外転によるテコ作用
➂物を投げる動作(外転・外旋)等の自家筋力
(症状)
烏口下脱臼
➀肩関節外転30°、上腕軸は外転内旋位
➁三角筋部の膨隆消失、肩峰角状突出
➂三角筋胸筋三角(モーレンハイム三角)消失
➃骨頭の位置異常⇒肩峰下空虚、烏口突起下に骨頭
⑤弾発性固定⇒上腕を胸壁につけてもすぐに戻る
鎖骨下脱臼
➀骨頭が鎖骨下に触れる
➁上腕の外転度は大きくなり、時には水平位
➂上腕短縮
合併症
➀骨折:大結節骨折、関節窩縁骨折(骨性バンカート)、上腕骨頭骨折(ヒルサックス)
➁神経損傷:腋窩神経(肩外転不能)、筋皮神経
➂血管損傷:腋窩動脈損傷→橈骨動脈の拍動消失
➃軟部組織損傷:腱板損傷、バンカート損傷(関節唇の前下方部の剥離)
整復法
➀コッヘル法
1. 軽度外転位の上腕を長軸上に末梢牽引しながら側胸壁に接近させる
2. 末梢牽引を持続しながら、上腕を外旋
3. 牽引の手を緩めず外旋位のまま前胸壁をすべるように肘を正中面に近づけながら(内転)、前方挙上(屈曲)する
4. 患側手掌が顔の前を通り健側の肩にくるように内旋する
➀ヒポクラテス法
1. 背臥位の患者に接して座り、踵および足の外側縁を患側腋窩にあて肩甲骨を固定する
2. 両手で前腕部を握り、徐々に外転・外旋位に末梢牽引
3. 同時に足底部を入れて牽引し足底部を支点として内転・内旋して整復する
➂スティムソン法
1. 患者を腹臥位に寝かせ、患肢をベッドの端から下垂させ10kg程度の重りをつける
2. 10~15分程度放置させる。肩を内外旋させると良い
➃その他の整復法
・クーパー法
・ドナヒュー法
・モーテ法
・ミルヒ法
(固定)
再発防止と周囲組織の早期回復を目的に行う
期間:約3週間
肢位:肩関節軽度の屈曲内旋
(後療法)
受傷~1週間:冷シップ
1週目~:温熱、手技療法。手指・肘関節の自動運動
2週目~:コッドマン体操(振り子運動) ※中年以降は凍結肩に注意
3週目~:固定除去。自動運動開始。 ※外転・外旋は制限
スポーツ復帰⇒最低2ヶ月禁止
鑑別診断
肩関節前方脱臼と上腕骨外科頸骨折
1.前方脱臼
➀三角筋の膨隆消失
➁肩峰下の空虚
➂肩軽度外転(約30°)に弾発性固定
2.外科頸骨折
➀内出血のため三角筋部が膨隆
➁肩峰下に骨頭を触知
➂軋轢音とある程度の運動
肩関節後方脱臼
(発生)
直達外力
前方からの外力
介達外力
肩関節屈曲位で転倒し手をついて起こる
(症状)
上肢強内旋位、下垂
➀肩峰下脱臼:骨頭を肩峰下部後方に触知する
➁棘下脱臼:骨頭を肩甲骨の辺縁、または肩甲棘の下部に触知
(整復法)
デパルマ法
➀術者は肘屈曲位とした患肢の前腕をおよび肘関節をつかみ、上腕長軸方向に強く末梢牽引
➁同時に助手は母指で骨頭を下方へと圧迫して骨頭の移動を助ける
術者はさらに牽引を続けて患肢を内転し側胸壁に接近
➂その位置で患肢を徐々に外旋すると整復される
牽引力を緩めて静かに内旋して患肢を軽度外転位に保つ
(固定法)
目的:前方脱臼と同様
肢位:肩外転、外旋、伸展位
下方脱臼
(発生)
・前方脱臼とほぼ同様
・上肢挙上時に外力
(症状)
1.腋窩脱臼
➀上腕の外転⇒前方よりも高度
➁骨頭は腋窩に触知
2.関節窩下脱臼
➀上腕を挙手した状態に固定され、多くは頭に手を当て来院する
(整復法)
1. 垂直牽引法
➀背臥位にした患者頭側に両足を伸ばして対座、片脚を肩にあて肩甲骨を固定する
➁患肢を徐々に末梢牽引し同時に他方の足で腋窩部から骨頭を圧迫して整復する
上方脱臼
烏口突起上脱臼
・非常にまれ
・骨頭が烏口突起上に触知
・烏口突起骨折を伴い、軋轢音・運動痛・皮下出血斑が著明
反復性肩関節脱臼
・外傷脱臼後に再受傷を繰り返す状態
・前方脱臼後に発生頻度が高い
・初回脱臼が10~20歳⇒再脱臼の頻度高い(軟損、スポーツ活動)
(原因)
➀バンカート損傷
関節唇(下関節上腕靭帯関節窩付着部)が脱臼により裂離し関節下縁の欠損を生じる(骨性バンカート)
前下関節上腕靭帯の緊張消失⇒肩伸展、外転、外旋の固定力低下⇒再脱臼
➁ヒルサックス損傷(上腕骨頭骨折)
上腕骨頭と関節窩が衝突することによる損傷
前方脱臼の場合骨頭の後外方に関節軟骨損傷を主体とする
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