柔道整復学 理論編 腰部の損傷(骨折、脱臼、軟部組織損傷)
腰部の損傷
腰椎骨折
1.下位腰椎圧迫骨折
腰椎の中では発生少ない
高所からの落下
発生
脊柱に垂直軸方向の圧迫力、腰椎部の強い屈曲力
症状・所見
・起位動作、寝返り動作、日常生活の脊柱運動で腰背部や側腹部に疼痛
・棘突起圧痛、叩打痛
・安定型⇒脊損は少ない。下肢後面のシビレ様放散痛を訴える症例がある
治療法
・経皮的椎体形成術(骨セメント療法)などが多い
・不安定性大⇒脊椎固定術
※経皮的椎体形成術(骨セメント療法)
圧迫骨折の治療法の一つで、圧迫骨折によりつぶれた椎骨をセメントで整復する治療である。
2.チャンス骨折
発生
・交通事故などで起こる損傷
・急激な屈曲力により椎体部分に圧迫力、椎弓後部に牽引力
症状
・椎体、椎弓根、椎弓に骨折線
・疼痛による起立、歩行、前屈制限
・棘突起部に限局性圧痛
・腹部にシートベルト圧痕
・脊損⇒少ない
3.腰椎椎体破裂骨折
(発生)
脊柱に軸圧が働き椎体全体が圧迫され、椎間板が椎体内に嵌入し椎体が破裂する骨折
胸腰椎移行部、腰椎部に好発
脊髄・馬尾神経障害を高頻度で合併
4.腰椎肋骨突起(横突起)骨折
(発生)
直達外力が多い
介達外力(大腰筋、腰方形筋)によるものある
第3腰椎に多い
(症状)
・局所に強い腫脹・圧痛
・運動痛:股関節屈曲時痛
・体幹を健側に側屈すると疼痛増強(パイル徴候)
腰椎の脱臼
・単独脱臼はきわめてまれ
理由
・腰椎は大きく、椎間板・椎間靭帯群の静的支持性が高い
・内、外寛骨筋群、脊柱起立筋群などが前後の安定に働いている
・可動性が大きい割に動的安定性が高い
腰部の軟部組織損傷
腰椎(腰部)の捻挫分類
1.関節性
2.靭帯性
3.筋・筋膜性
1.関節性
a.椎間関節
椎間関節の関節包の炎症。いわゆるギックリ腰
症状
・腰痛発作として現れる(ファセットシンドローム)
・激痛軽減後、起床時や長い時間座った後に立ち上がる時など、動き始めに痛みを強く訴えるが日中の痛みは軽快する傾向
・下肢症状⇒少ない
・仙腸関節痛もある
b.椎体間連結(椎間板性連結)
発生
長時間の座位、朝の洗顔時の掃除、台所仕事の中腰姿勢
症状
はっきりしない腰部鈍痛
寛骨筋群への関連痛
下肢への神経症状⇒少ない(ラゼーグ、ブラガード陰性)
2.靭帯性
a.椎骨部の連結(棘上靭帯、黄色靭帯、棘間靭帯)
発生
・腰部の過度前屈位で重量物を運搬する際に発生
・コンタクトスポーツ⇒棘上靭帯、棘間靭帯の炎症、損傷(スプラングバック)
・中年以降⇒棘上靭帯、棘間靭帯、脊柱起立筋の退行性変性により、保護機能低下
症状
圧痛、中腰姿勢で前屈位での運動痛
b.仙腸関節の靭帯(前・後仙腸靭帯、骨間靭帯、仙結節靭帯、仙棘靭帯)
発生
・スポーツ活動などの損傷
・日常生活、就労での不良姿勢
症状
・仙腸関節部、下臀部の疼痛、圧痛
・体幹前屈痛、内外旋痛
検査法
・ニュートンテスト
・逆パトリック
通常のパトリック
3.筋・筋膜性
a.腰部
線維性結合組織の無菌性炎症性疼痛
急性腰痛発作(魔女の一撃)とも呼ばれる
発生
急激な体幹の動きなどで仙棘筋の線維性結合組織損傷として発生
疼痛機序
多裂筋、腰腸肋筋などの筋膜の痛みとされ、筋線維の充血・腫脹により筋膜内の自由神経終末の刺激と考えて
られている
症状
・罹患筋のスパズム
・圧痛
・可動域制限
再発例、亜急性移行例
・長時間の歩行時痛、夕方からの疼痛
⇒筋持久力の低下⇒前屈位⇒筋内圧上昇(コンパートメント様症状)
エコー
・筋内血腫、皮下血腫の貯留による低エコー
・筋線維パターンの不整像
・筋硬結部の高エコー
b.仙骨部、臀部
腰部損傷と同様に筋膜や筋自体の微細損傷
梨状筋損傷⇒打撲や挫傷の後に発症(梨状筋症候群)
発生
重量物の挙上
症状
・一側の腰痛、下肢痛
・座位、股内旋時に痛み
・梨状筋の圧痛
c.尾骨部
発生
・尾骨骨折後や打撲などの外傷、長時間のデスクワーク自転車運転などで尾骨部の圧迫
・女性:月経周期前後に痛み
発生メカニズム
尾骨周囲の感覚神経過敏症と考えられる
症状
・仙骨部の疼痛・違和感、殿裂部の尾骨に圧痛
・ときに排尿、排便時のいきむ際に臀部に放散する痛み
保存療法で軽快するが、時に長期になることもある
筋筋膜性腰痛の治療法および固定法
急性期
消炎鎮痛:患部のアイシング、早期からの超音波
固定 :損傷の程度、既往歴の有無、患者のADL合わせて固定
固定目的:動きの制限、腹圧を高める
物理療法
目的:疼痛や血流改善。筋硬結の除去
電療・温熱・超音波:トリガーポイントとして筋辺縁部や硬結部、バリーの圧痛点領域を治療点とする
ときに介達牽引
バリーの圧痛点
坐骨神経が梨状筋下孔を通過して臀部や太腿の背側に出る部位
手技療法
揉捏法、伸長法
運動療法
腰椎前弯増強⇒ウィリアムズ体操、マッケンジー体操
梨状筋損傷⇒股伸展筋群の筋力増強
予後・指導
初発:適切な処置や患部の安静で予後は良好である
再発繰り返す:難治性になりことが多い
椎間板退行性変性:患者に説明し理解させて、再発や慢性化させないこと
e.その他の疾患
鑑別疾患
・腰椎椎間板ヘルニア
f.注意すべき疾患
・脊椎圧迫骨折
・腹部大動脈溜
・脊髄腫瘍
・原発性骨腫瘍
・癌の骨転移
慎重な観察や判断が必要で疑われる場合は早期に専門医へ依頼
参考文献
柔道整復学 理論編 改訂第6版 南江堂
整形外科学 改訂第4版 南江堂
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