柔道整復学 理論編 後療法(運動療法)
後療法(運動療法)
目的
人体各部における運動機能の障害を可及的速やかに改善し運動を積極的に取り入れながら. その機能回復と増進を図るもの
方法
・徒手で行うもの
・器具を用いて行うもの.
運動療法の方法・注意点
(1)運動療法の説明と同意:意義と必要性(理論.効果など)を簡潔に説明し同意をえる.
(2)運動療法の禁忌:
・手術後は術式などによって禁忌となる運動があるので.医師との連携
・既往歴や現病歴などを正確に把握し判断
・事前に血圧.脈拍.体温などを評価.
(3)運動療法施行時の患者体位や患肢肢位:運動内容はもとより.患者年齢や病態.既往歴により選択する.
(4)運動療法の変更:経過により種類.乢頻度.負荷.中止などを判断.
(5)運動療法機器の安全対策(保守管理の充実) :
・施術所内の安全対策
・患者が自宅で行う場合⇒同様に.量.頻度、負荷.インターバルなどを詳細に説明し.さらに重りや補助器具の代用となるもの(砂嚢、本.袋入りの塩・砂糖.ヒモ.バスタオル.机.椅子など)の使用方法を指導したうえ試行させ.正しく行うことができるか確認する.
1運動の基本型
運動の力源.筋の収縮の状態により分類する.
a.力源からみた運動
分類
・他動運動
・自動運動(自動介助運動、自動運動、自動抵抗運動)
1.他動運動passive exercise
施術者.器具,または患者自身の健康部位を使って患部を動かす運動である
患者自身の健康部位による他動運動を自己(自助)他動運動と呼ぶ.
・持続的他動運動continuous passive motion(CPM)は四肢に対し機械を使ってゆっくりとした往復の関節可動域運動を持続的・反復的に行う訓練である.徒手と比べ安定感があり.運動のスピードや可動域を一定に保ち.長時間できるという利点がある
術後に用いられることが多く.関節拘縮予防. ROMの獲得,疼痛や腫脹の軽減が目的
2.自動運動active exercise
①自動介助運動active assistive exercise
徒手または懸垂などで半分は他動的に助けられて自動運動をするもので,他動運動から自動運動への移行部分にあたる.
②自動連動active exercise
助けなく抵抗(負荷)もない運動
まったく抵抗のないものから, 若干の抵抗に対して行われる自動運動までを含む.たとえば肩・股関節のような近位の関節の運動は外見上なんの抵抗もないようにみえるが,自分の四肢の重力に打ち勝って動いている.
➂自動抵抗運動resistive active exercise
運動の過程で,抵抗を加えて行う各部位の運動で,抵抗の方法
体重負荷,施術者の加える徒手的抵抗, 器具(重錘, ゴムチュープ, 各種マシンなど)による抵抗など
b.筋収縮からみた運動
筋収縮とは, 筋の張力が発生する意味であり, 必ずしも短縮を意味しない.
1.等尺性収縮
抵抗に対して筋が収縮する場合, 筋の張力が増し, 収縮しているにもかかわらず. 筋の起始.
停止が一定の長さを保っている収縮の相であり, 関節運動は起こらない.
2.等張性収縮
抵抗に対して筋が収縮し, 張力がかかり, 関節運動が起こる場合の相である
①求心性収縮
筋収縮時の筋の起始, 停止が近づいていく=張力が抵抗より大きい場合発生
生理的な筋収縮として普通にみられる.
例:肘関節屈曲時の上腕二頭筋や上腕筋などが該当する.
②遠心性収縮
求心性収縮とは反対に, 筋収縮時に筋の起始, 停止が遠ざかっていく=抵抗が張力より大きい場合
伸張性収縮ともいう
例)肘伸展時の上腕二頭筋や上腕筋などが該当する.
③等速性収縮
筋力の強弱にかかわらす, 筋収縮の速度が, 全可動域を通して一定に制御された運動
実際
患者あるいは被検者が随意的にこの収縮運動を行うことはできず, 特別の装置が必要である
一定の関節角度での筋収縮は関節トルクとして測定され,運動角速度が一定であるため筋力曲線および関節トルクの測定が容易であり,臨床および調査研究の面で有効である.
c.単関節運動と多関節運動
多くの身体運動は単関節運動か多関節運動のどちらかに区別
単関節運動 | 多関節運動 |
・開放性運動連鎖(OKC)で行われることが多い | ・閉鎖性運動連鎖(CKC)で行われることが多い |
・日常生活やスポーツ動作の一部分の運動に似る | ・日常生活やスポーツ動作に似る |
・身体部位の固定が少ない | ・床面に身体部分を接触,固定させることが多い |
・対象とする筋群に適正な負荷が加わる | ・個々の筋に対する負荷はわからない |
・運動は比較的簡単 | ・運動はややむずかしくなる |
・動作の学習には向かない | ・動作全体が習熟するのでスポーツ動作の改善に役立つ |
・多関節運動の前段階の運動として用いる | ・重力下での身体運動制御が可能 |
・弱い関節部位があると全体に影響する |
・開放性運動連鎖(OKC):床などに四肢や身体が接触や固定されていない状況で運動.
・閉鎖性運動連鎖(CKC):床などに四肢や身体が固定されている状況で運動
d.対象部位からみた運動
1.患部の運動
患部局所の機能低下における改善を目的とする.
2.患部外の運動
固定や臥床により.患部外の機能も低下するため,患部外の運動を実施して様々な機能の維持.改善を目的.循環器系の機能低下を予防する全身持久性の運動も含まる.
通常.急性期から患部局所に影響のない患部外運動を行う.
運動療法の種類
詳細は「リハビリテーション医学」を参照
a)基本的運動療法
1.リラクセーション
疼痛や精神的緊張などによる筋の過緊張状態を緩和すること
他の運動療法が無理なく行えるようにすることを目的として行う.
2.関節可動域訓練
可動域の維持と増大に大別される.可動域増大訓練にはストレッチが含まれる.
四肢の様々な関節の手術後に器機による他動運動CPMが行われている.
3.筋力増強訓練
患者の筋力の強さによって他動・自動介助・自動抵抗運動など適応が異なる.抵抗には徒手. 重錘.自重など様々な方法があり.抵抗運動による訓練方法には等張性・等尺性筋力増強運動などいくつか代表的なものがある.
4.持久力訓練
筋持久力を高める運動:最大筋力の60%程度の力で比較的速い運動を数十分の単位で行う
もともと筋持久力の低下している場合⇒低い負荷でも効果は上がる
筋持久力の向上は全身持久力の向上と平行し全身調整運動との関連が深い.
5.神経運動器協調訓練
神経系による運動の協調性を改善する目的
主に姿勢制御能の低下による関節への負荷が下肢の関節症の進行を助長させるという観点から, 動的関節制動訓練(DYJOC トレーニング: dynamic joint control training),バランス訓練が行われている.
b.応用的運動療法
l.基本動作訓練,歩行訓練
基本動作は臥位から立位,歩行までの順序だった動きである.
2.全身調整運動
最大酸素摂取量を向上させることを目標.
より多くの筋をある程度以上のスピードで行う
時間:最低10分以上持続的に活動
代表例:ウォーキング.自転車工ルゴメーター トレッドミルなど
3.治療体操
リラクセーションや可動域訓練,筋力訓練.全身調整などをできるだけ多く組み込むように考えられている.
腰痛体操などがこれに該当する.
4.その他
転倒予防体操.
健康柔(やわら)体操など.
3 実際
詳細は 「リハピリテーション医学」 を参照.
a.適用
骨折. 脱臼. 捻挫. 打撲, その他軟部組織の損傷に適用するが. その他. 医師の指示による後療法がある.
また, 機能訓練指導を通して, 要介護者などに対する重度化の防止または改善. 非該当者の生活機能の維持や向上などが該当する.
b.開始時期
局所の疼痛,発熱などの著明なときは実施しないのが原則である.この症状が消退しはじめる頃,細心の注意をはらって開始する.
c.禁忌
( 1 )発熱( 38℃以上)しているとき
( 2 )安静時脈拍数が100回/分を超えるもの
( 3 )高血圧があり. 拡張期血圧120mmHgを超え. 自覚症状があるもの
( 4 )収縮期血圧100mmI地以下の低血圧があり. 自覚症状を伴うもの
( 5 )急性症状のあるとき
( 6 )重度の心疾患
( 7 )その他
参考文献
柔道整復学 理論編 改訂第6版
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