柔道整復学・理論編 各組織の損傷(脱臼・軟部組織)
脱臼・軟部組織
脱臼
脱臼の定義
「正常な関節面相互の解剖学的位置関係を失っている状態」
脱臼の分類
関節の性状による分類
➀外傷性脱臼
➁病的脱臼
関節に基礎的疾患があり、軽微な外力で発生する脱臼で、関節包の断裂はない。
(1)麻痺性脱臼:片麻痺患者の肩関節脱臼
(2)拡張性脱臼:急性化膿性股間節炎、股関節結核
(3)破壊性脱臼:関節リウマチ、手指の脱臼変形
脱臼の程度による分類
➀完全脱臼
➁不全脱臼
位置による分類
➀前方脱臼、後方脱臼
前方脱臼の図
➁上方脱臼、下方脱臼
上方脱臼の図
③側方脱臼
➃中心性脱臼
脱臼数による分類
➀単数脱臼
1か所の脱臼
➁複数脱臼(二重脱臼)
1本の骨で中枢と末梢の2か所で脱臼したもの。
例)鎖骨の胸鎖関節と肩鎖関節が同時に脱臼や、指骨の近位と遠位の脱臼
③多発脱臼
2か所以上の関節が同時に脱臼
創部との交通による分類
➀閉鎖性脱臼
被覆軟部組織損傷の伴わないもの
➁開放性脱臼(複雑脱臼)
被覆軟部組織損傷により関節腔と創部が交通しているもの
外力の働いた部位による分類
➀直達性脱臼
外力が直接関節に働いたもの
➁介達性脱臼
外力が他の部位に誘導されて離れた関節で脱臼したもの
脱臼時期による分類
➀先天性脱臼
胎児期での発育欠陥
・先天性股関節脱臼(現在は発育性股関節脱臼)
➁後天性脱臼
出生後に、外傷や疾病などの原因によって発生
経過による分類
➀新鮮脱臼
受傷後数日以内のもの
➁陳旧性脱臼
数週間経過したもの
見逃されやすい脱臼
・モンテギア骨折時の橈骨頭
・月状骨掌側脱臼
・肩関節後方脱臼
頻度、機序による分類
➀反復性脱臼
外傷性脱臼に続発
・肩関節脱臼
➁習慣性脱臼
軟骨の発育障害、関節弛緩性のある場合に軽微な外力で発生
(顎関節、膝蓋骨脱臼)
③随意性脱臼
本人の意思で自由意志で脱臼を起こせる
(肩関節)
脱臼の症状
一般外傷症状
➀疼痛:持続性疼痛(連続的脱臼痛)
➁腫脹:骨折程著明でなく
③機能障害
脱臼の固有症状
➀弾発性固定
➁関節部の変形
(1)関節軸の変化
(2)関節自体の変形
(3)脱臼肢の変化:短縮、または延長
(4)関節腔の空虚
脱臼の合併症・整復障害
合併症
➀骨折
基本は脱臼から先に整復
※モンテギアは例外
➁血管、神経損傷
③軟部組織損傷
・皮膚損傷:細菌感染の危険性
・関節包の損傷:基本必発(顎関節脱臼、股関節中心性脱臼)
・靭帯損傷:部位、年齢、外力による
➃内臓損傷
・股関節中心性脱臼:骨盤内蔵器損傷
・胸鎖関節後方脱臼:気管損傷
整復障害
➀関節包による整復路の閉鎖(ボタン穴機構)
➁掌側板、種子骨の介入
第1中手指節関節にしばしばみられる
③筋腱、骨片による整復路の閉鎖
・第2MP関節の背側脱臼時に筋や腱などが作る井桁構造内へ中手骨頭嵌入
・上腕骨内側上顆骨折の骨片介入
➃支点となる骨の骨折
肩関節脱臼+上腕骨外科頸骨折
⇒徒手整復を不能にする
⑤筋、補強靭帯、関節包の緊張
⑥陳旧性離脱臼
軟部組織損傷
関節の基本構造
筋の損傷
直達外力:打撲
介達外力:肉離れ
と定義されることが多い。
時期による分類
➀急性:一度の外力で発生
➁亜急性:継続的に力が加わることで発生
筋損傷の程度による分類
第Ⅰ度:筋線維の断裂は認められない。筋の伸長により筋細胞の破壊状態
第Ⅱ度:部分断裂。一般に肉離れ状態で完全に断裂はしていない。
第Ⅲ度:完全断裂。筋腹間に陥凹あり。
腱の損傷
腱の性状による分類
➀外傷性腱損傷:外力が作用し発生。急性、亜急性に分けられる。
➁その他の腱損傷:病的状態(リウマチなど)
腱損傷の程度による分類
第Ⅰ度:腱線維の断裂なし。炎症による疼痛、腫脹など
第Ⅱ度:腱線維の部分断裂
第Ⅲ度:腱の完全断裂
抹消神経の損傷
末梢神経に加わる力
➀急性:直接的な外力、骨損傷・関節損傷に伴う圧迫、牽引力など。
➁亜急性:継続して力が加わることで発生。
神経損傷の程度
セドン分類
第Ⅰ度:一過性不動化(neurapraxia)
第Ⅱ度:軸索断裂(axonotmesis)
第Ⅲ度:神経断裂(neurotmesis)
サンダーランド分類
第Ⅰ度:限局性脱髄による伝達障害(neurapraxia)
第Ⅱ度:軸索のみ損傷(axonotmesis)
第Ⅲ度:軸索と神経内膜の損傷
第Ⅳ度:神経周膜まで損傷
第Ⅴ度:完全損傷(neurotmesis)
参考文献
「柔道整復術 理論編」改訂第6版
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