柔道整復学 理論編 頭部・顔面の損傷
頭部・顔面の脱臼・骨折・軟部組織損傷
頭部の解剖学的特徴
頭蓋骨の解剖学
特徴
・15種23個からなる
・骨の発生の違い
膜内骨化⇒頭蓋底以外
軟骨内骨化⇒頭蓋底
・含気骨がある
・中に脳を入れる
頭蓋骨
・脳頭蓋(6種8個)
後頭骨、蝶形骨、側頭骨、頭頂骨、前頭骨、篩骨
※頭蓋冠:脳頭蓋の上部(前頭骨(前頭鱗、頭頂骨、後頭骨(後頭鱗)、側頭骨(鱗部)
・顔面頭蓋(9種15個)
下鼻甲介、涙骨、鼻骨、鋤骨、上顎骨、口蓋骨、類骨、下顎骨、舌骨
A.頭蓋骨骨折(頭蓋冠骨折、頭蓋底骨折)
・頭蓋冠骨折(前頭骨、頭頂骨、側頭骨、後頭骨)
直達外力多い
小児で陥凹骨折
・亀裂骨折(線状骨折)
発生:転倒時に頭蓋冠を強打
症状、所見:限局性圧痛。臨床上の問題少ない
続発、後遺:頭蓋内出血による脳圧迫
・陥没骨折
発生:転倒時に硬質物の角にぶつかる
症状、所見:血腫形成、限局性圧痛、変形
続発、後遺:脳虚血、瘢痕形成
・陥凹骨折
発生:幼小児に発生
症状、所見:皮膚損傷を伴わず発生、血腫形成、限局性圧痛、変形
続発、後遺:脳損傷に注意
・縫合離開
発生:転倒時に頭蓋冠に強打。幼小児に極めてまれに発生
症状、所見:離開部を中心とした血腫形成、限局性圧痛
続発、後遺:骨折線拡大・肥厚⇒拡大性骨折
合併症
・脳震盪
・脳挫傷
・急性硬膜外血腫
・急性硬膜下血腫
・脳圧圧迫症
・頭蓋内出血
応急処置
・絶対安静
・移送時:頭部高位、動揺防止
・頭蓋底骨折 (軟骨内骨化)
概説
・介達外力多い。(前、中頭蓋底)
・血管、神経の損傷が多い
発生
・頭蓋冠の強打
・足底、または臀部からの突き上げ
分類
前頭蓋底骨折、中頭蓋底骨折、後頭蓋底骨折に分類
⇒側頭骨、後頭骨の連結部(破裂孔部)の骨折が大部分を占める
症状、合併症
前頭蓋底骨折
症状:ブラックアイ徴候、髄液鼻漏
合併症:嗅神経、視神経障害
中頭蓋底骨折
症状:バトル徴候、乳様突起部皮下出血班、髄液耳漏
合併症:顔面神経麻痺、聴覚障害、内耳神経障害
後頭蓋底骨折
症状:咽頭後壁の粘膜下出血斑、各種神経障害を疑わせる症状
合併症:舌咽神経、迷走神経障害⇒口蓋垂の健側変位、カーテン徴候(口蓋が健側に引かれる)
舌下神経障害⇒舌の患側偏位
その他合併症⇒頭蓋冠骨折といっしょ
顔面頭蓋骨折
a.鼻骨骨折・鼻軟骨骨折
(発生・分類)
斜鼻型:斜めからの外力。発生頻度高い
鞍鼻型:正面からの外力。
(症状)
・鼻稜部の彎曲、平鼻
・高度腫脹、圧痛、眼窩部に皮下出血斑
・鼻出血、鼻閉
・時間経過とともに腫脹増大
整復法
➀細目の丸塗り箸などにガーゼ綿花を巻いて鼻孔に挿入
➁鼻孔のなかから転位に応じた方向に持ち上げ強矯正
外側から母指、示指で彎曲矯正、鼻稜を整えて整復
➂ガーゼや綿花でタンポンを作り、鼻孔から挿入し整復位保持
固定
・必要に応じてプロテクター
続発、後遺症
・変形治癒
b.上顎骨骨折
眼窩底破裂骨折(眼底吹き抜け骨折)
眼窩の構成
頬骨、上顎骨、涙骨、篩骨、前頭骨、口蓋骨、蝶形骨
眼窩上部:頑丈⇒前頭骨
眼窩底:薄い⇒骨折しやすい
うすい眼窩底に圧力が加わり発生
発生
直接打撃による眼科内圧の圧力の波及
(症状)
・眼球後退
・眼窩内出血
・眼列狭小⇒浮腫による
診断
単純Ⅹ線、頭部CT、三次元CT、MRI
合併症
・脳振盪
・脳挫傷
・眼窩下神経障害
・視神経障害
応急処置
・頭部安静、搬送の動揺注意
治療法
観血療法:口腔内から上顎洞へバルーンを留意する手術療法
続発症、後遺症
・変形に伴う眼球の上転障害⇒複視、視野障害
・眼窩下神経領域の感覚障害⇒頬から上口唇にシビレ感
旧教科書(第5版)の上顎骨骨折
(発生)
直達がほとんど。複雑骨折になりやすくルフォール分類Ⅱ、Ⅲ型は逆行性感染の注意。
ルフォール分類
Ⅰ型:顔面部打撲により上顎骨歯槽骨折をきたし、上顎が下後方に転位
Ⅱ型:顔面中央部の陥凹と咬合不全。鼻・篩骨骨折で髄液漏をおこすので逆行性感染の注意
Ⅲ型:顔面上部打撲で顔面と頭蓋の連続性が絶たれた状態。髄液漏がみられるので逆行性感染の注意
症状
高度腫脹、ルフォールⅡ・Ⅲ型で顔貌の変化、ルフォール型は咀嚼障害、咬合不全、顎動揺、ルフォールⅡ・Ⅲ型+鼻・篩骨骨折で髄液鼻漏
合併症
・脳震盪
・脳挫傷
・眼窩下神経障害
・視神経障害
・気道閉塞
c.頬骨、頬骨弓骨折
概説
頬骨側と側頭骨側の3か所がⅤ字型に骨折する
発生
コンタクトスポーツ、転倒などの直達外力
分類
・頬骨弓単独骨折
・頬骨体部骨折
(症状)
・高度腫脹、皮下出血
・顔貌変化⇒頬の平坦化
・眼球陥没⇒複視、視野狭窄
・単独骨折⇒頬骨弓によって裏側にある側頭筋圧迫し開口障害
・眼窩下神経損傷⇒頬から上口唇にシビレ
合併症
・脳震盪
・脳挫傷
・眼窩下神経障害
・視神経障害
治療
転位の大きいものは観血療法
続発症、後遺症
頬骨弓単独骨折はⅤ字型の骨折の影響で側頭筋が癒着⇒咀嚼運動障害
d.下顎骨骨折
概説
・顔面部の中では発生頻度高い。
・20代に多い。10歳未満、50歳以上は少ない
外部との交通
下顎体部骨折→開放性骨折
下顎枝部→閉鎖性骨折
分類
・下顎骨骨体部骨折(約6割)
・下顎枝骨折(約4割)
発生
下顎骨骨体部骨折:開口時の強打。歯を食いしばっているとおきにくい
下顎枝部骨折:オトガイ部や体部側方からの外力で発生。顎脱臼整復時に発生することもある。
(症状)
噛合異常、顔貌の変形、開口障害、嚥下障害、骨折部の異常可動性、軋轢音、限局性圧痛、出血、裂傷
(合併症)
顎関節脱臼、咀嚼障害、感覚障害・神経麻痺、軌道閉塞
顎関節脱臼
(特徴)
1:正常可動域内でも不全脱臼型になる
2:関節包内脱臼
3:女子 > 男子 (女子は関節窩が浅いため)
4:前方脱臼 多い
5:習慣性脱臼、反復性脱臼になりやすい
A.顎関節前方脱臼
(発生)
両側性脱臼:極度の開口時に、関節頭が関節結節を超え、前方に転位し、外側靭帯、咬筋、外側翼突筋により固定。
片側性脱臼:開口時に打撃など
(症状)
完全脱臼
1:閉口不能、談話困難
2:下顎歯列が、上顎歯列の前方に変位
3:耳の前方が陥凹
4:弾発性固定が明らか
5:頬は扁平となり関節窩は空虚
片則脱臼
1:両側脱臼ほど著明ではなく、半開口でわずかに開閉可能。
2:オトガイは健側に偏位
3:患側の耳口前方に陥凹触知。
(整復法)
1.口内法(ヒポクラテス法)
①患者を坐位とし 背部. 頭部を壁につけさせる(両下肢を投げ出して座らせリラックスさせる). または想者を背臥位とし. 背部, 頭部を床につけリラックスさせる.
②患者を坐位にさせた場合.助手に患者後方から顎を引くように頭部を屈曲(前屈)位に保持させる
➂術者は患者の前方に位置する.
➃両母指にガーゼを卷く(またはゴム手袋を用いる)
⑤患者の口腔に母指を人れ.母指を左右の大臼歯上にあてる
⑥その他四指は口外から下顎部を把持する.
⑦両母指で緩徐に大日歯を下方に押圧しながら. 他四指で把持している下顎部を持ち上げるようにし.さらに力を緩めす下顎部全体を後方に導くように押していく.
⑧わずかに関節頭が引き込まれるような感触が伝わるとき. 把持した下顎部を口腔を閉じるように軽く前上方に持ち上げる操作をすると整復される
⑨整復と同時に術者は両母指を大白歯の外側に滑らせる.
[・整復時に手指を噛まれないように. また手指を傷つけないように注意する」
2. 口内法:ボルカースBorchers法
①患者は坐位とする.
②術者は患者の後方に立つ
➂後方から口内に両母指を入れ.患者の両大臼歯咬合面上または大自歯と下顎枝との間に置く
➃両母指で下顎を下後方に強く押し整復する
3.口外法
①患者を坐位または背臥位にさせる.
②坐位の場合, 術者は患者の後方に立ち, 患者の背部に接するようにする. 次に左右の母指球部を下顎角部から下顎体部に密着させ把持し. 頭部を前屈させる. 背臥位の場合. 術者が正座し 患者の後頭部を膝の上にのせて頭部を前屈させ, 左右の母指球部を下顎角部から下顎体部に密着させ把持する
➂母指球部の力を緩めずに, 把持した下顎体部を前下方に緩徐に押していくと, 口の開きが拡大し抵抗感が強くなる.
➃このとき, 他四指でオトガイ部を挙上させ, 口を閉じるように操作すると整復される
固定
1)固定材料:巻軸包帯
2)固定肢位
(1)整復後は食事・欠伸などで大きく開口する下顎関節の運動を制限する.
( 2 )整復後は, 投石帯 , 十字帯で固定することが望ましい.
後療法
1)目的
再脱臼を防ぐとともに, 固定により拘縮した関節を早期に正常に復する.
2)方法
( 1 )顎関節部に2~3 日冷湿布を実施する.
( 2 ) 3~4日は投石帯で固定し 流動食, 半固形食とする.
( 3 ) 3~4日後から温罨法. 超音波療法などで患部の血行促進を図る.
( 4 ) 2週後から半開口を許可(徐々に固形食に変更していく) ,3週後から全開口を許可する.
B.顎関節後方脱臼
(発生)
きわめてまれ。閉口時に、前方よりオトガイ部への強い衝撃
(症状)
下顎骨は後方に移動、咬合不能、下顎頭が位置異常
(合併症)
1:下顎骨折
2:頭蓋底骨折、外耳道前壁の骨折
整復法
前方脱臼と同様に下顎骨を把持し、前下方に牽引し整復
頭蓋底骨折、外耳道壁の骨折の合併がある場合は専門医に緊急搬送
C.側方脱臼
骨折の合併としてみられ、単独脱臼はきわめてまれ。
(症状)
下顎後退、前歯部が開口して咬合不能、下顎運動障害、下顎頭の位置異常
軟部組織損傷
A.外傷性顎関節損傷(顎関節捻挫)
(発生)
直達外力:スポーツ外傷、転倒、交通事故、暴力行為
介達外力:下顎部への外力
(症状)
顎関節部の腫脹、圧痛、顎関節運動制限、関節円板の偏位を伴えば開口・閉口障害
B.頭部、顔面部打撲
(発生)
スポーツ外傷、転倒、交通事故、暴力行為などの直接打撃
(症状)
皮下出血著明(小動静脈損傷によるため)、皮下血腫、開放創の合併
C.顎関節症
Ⅰ型:咀嚼筋障害
顎関節運動に伴う咀嚼筋群の疼痛を認める。
咀嚼筋群の調和の乱れ、筋スパズムが原因といわれている。
Ⅱ型:関節包・靭帯障害
オトガイ部の強打、過度の開口、硬い物の無理な咀嚼等が原因で起こる。
Ⅲ型:顎関節内症
顎関節症の主体をなす病態で、円板の前内方転位、円板変性穿孔、線維化などがみられる
Ⅲa型:相反性クリック(円板の前方転位が復位するもの)
開口、閉口時、下顎頭が円板の後方肥厚部を通過する際に関節雑音を生じる
Ⅲb型:クローズドクリック(前方転位が復位しないもの)
➀相反性クリックの前方転位が進行したもの
➁開口時に、下顎頭が円板の肥厚を乗り越えられず開口障害
③クリックを認めない
関節鏡視下手術(外側靭帯剥離術)
Ⅳ型:変形性顎関節症
軟骨破壊、骨増殖、下顎頭変形、円板穿孔などの進行性病変が主体
症状・所見
・顎関節雑音
・開口障害
・骨肥厚、骨硬化、下顎骨の変形
治療法
・保存療法:根治ではない。理学療法、薬物療法、マウスピース療法
・観血療法:下顎頭修正術、関節結節修正術
Ⅴ型:精神的因子
精神心理的要因が原因
抗不安薬の投与で症状改善すれば、Ⅴ型の疑い
参考文献
柔道整復学 理論編 改訂第6版
柔道整復学 実技編 改訂第2版
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