柔道整復学 理論編 胸部の損傷(骨折・脱臼・軟部組織損傷)

胸部の損傷(肋骨、胸骨、脊椎骨折、脱臼、軟部組織損傷)

肋骨骨折・肋軟骨骨折


(発生)
直達外力

墜落、衝突。
変形:胸郭内方凸
好発:第5~9肋骨前側胸部

 

介達外力
・高齢者のクシャミ
・ゴルフスイングでの疲労骨折(5~6肋骨)
変形:胸郭外方凸

※1、2肋骨の直達外力はまれ:比較的深部にあり周囲を筋骨にまもられているため
第1、2肋骨はマラソンでの呼吸運動、テニスのサーブなどのオーバーアーム動作の繰り返しにより疲労骨折、裂離骨折を起こすことがある

分類
・肋軟骨部骨折
・肋硬骨部骨折
完全骨折:転位の大きいものや多発骨折で変形触知
不全骨折:疲労骨折や、自家筋力による裂離骨折

症状
疼痛
・深呼吸、咳、クシャミで激増
・前後、もしくは左右からの圧迫で介達痛

軋轢音
・手掌をあて深呼吸させる
・せき、くしゃみで自覚

転位、変形
・転位を認めない場合が多い。多発や転位が大きい場合は触知可能

エコー
・骨連続性が絶たれた状態の不正像
・血腫による低エコー

合併症

胸郭動揺
1本の肋骨が2か所以上で折れて隣接する数本の骨に及ぶと発生。呼吸困難を生じる
外傷性皮下気腫
胸膜腔に期待が貯留した状態
血胸
胸膜腔内に血液の貯留貯留

内臓損傷
・目まいや吐き気、不整脈、血圧変化⇒胸腔および腹腔内臓器損傷
・第11、12肋骨打撲の腰背部痛、血尿⇒腎損傷
・右季肋部の骨損傷⇒肝損傷

固定 実技教科書
目的
( 1 )呼吸運動を抑制して骨折部の安静
( 2 )動揺による臟器の二次的損傷や転位の増大を防ぐ.
( 3 )疼痛の軽減
( 4 )局所を圧迫

2 )固定材料
巻軸包帯, サラシ, 弾性包帯. 絆創膏. 厚紙副子, 胸部固定帯(バストバンド)など
3 )固定法

a )絆創膏固定(屋根瓦状固定)
準備
・幅約5cm. 骨折部の上下約10cmの絆創膏(絆創膏①) , 幅約5cm健側の前正中線の手前から患部を経て, 後正中線を数cm越える長さの絆創膏➁を用意する.
・貼付範囲をアルコール綿で清拭する.
・カット綿またはガーゼを乳頭にあてる.多毛の人は剃毛する.
手順
1.絆創膏①を前, 後正中線の健側に縦に貼付
2.縦方向に貼られた前後の絆創膏間に絆創膏②を貼付する.このとき,呼気時に肋骨弓下縁から上方に向かって少しずつ重ねながら貼っていく
3.絆創膏の上に包帯固定

b)絆創膏と副子の併用(重度損傷時に適応される)
1.絆創膏固定は前述のとおり実施しその上に副子(厚紙)を重ねる
2.厚紙は2mmぐらいの厚手のものを使用し内側に綿花またはフェルトパッドをあて,皮の保護と衝撃の緩和を図る.
3.副子には厚紙のほかに,合成樹脂製キャスト材などを用いてもよい.

後療法
急性期が過ぎてから温罨法, 手技療法などを併用すると治療効果を高め, 早期回復につながる

患者を座位で、完全呼気の時に正中線を越え絆創膏を添付

 

胸骨骨折

概説
横骨折が多い


・体部骨折 > 柄体境界部骨折 > 体・剣状突起骨折 の順番に多い
・交通事故のハンドル損傷、シートベルト損傷
・骨盤内蔵器損傷の注意

発生
1:直達外力:スポーツでの衝突、交通事故損傷(ハンドル、シートベルト損傷)
2:介達外力:体幹の強い前屈、過伸展で発生。まれ
3:自家筋力:ごくまれ

 

分類
1.胸骨柄結合部骨折
前方転位:遠位骨片が突出し、近位骨片に騎乗
後方転位:遠位骨片は近位骨片の後方に転位

2.胸骨体部骨折
直達外力:陥凹、陥没骨折
ハンドル、シートベルト損傷:遠位骨片が近位骨片の前上方に騎乗する階段状変形

3.胸骨剣状突起部骨折
剣状突起が後方に転位

症状
・頭部を前方に下垂し、両肩を前方にすぼめる(疼痛緩和肢位)
・皮下出血、腫脹・限局性圧痛
・胸式呼吸⇒痛い 腹式呼吸⇒推奨

合併症
・心挫傷、心タンポナーデ、心原性ショック
・血胸
・胸管損傷
・肋骨骨折、頸椎、胸椎骨折
・縦郭臓器損傷

治療法
転位なし:副子をあて胸背部8字帯。または絆創膏で胸郭運動を制限
骨癒合:4~5週

予後
受得な合併症がない限り良好

胸椎骨折

概説
デニスの3支柱理論(椎骨損傷の安定性の評価)
中間支柱部に及ぶ損傷⇒不安定性で脊髄損傷を合併

 

上部胸椎棘突起骨折
スコップ作業による疲労骨折
下部頸椎棘突起骨折と同様

胸椎の椎体骨折

a.胸椎椎体圧迫骨折


概説
垂直軸方向の圧迫力、屈曲力が過剰にかかり発生しやすい
好発:第6~8胸椎(後弯が強い部分)
発生
・高所からの転落
・高齢者の尻餅、バス走行中のバウンド
・破傷風罹患時の後弓反張

 

症状
・背部の疼痛、起立歩行時などの起位動作時痛、前屈動作痛
・罹患椎骨棘突起の圧痛、叩打痛
・亀背、円背
・罹患椎高位に一致しり皮膚分節に帯状痛を認めるものある
・Ⅹ線:罹患椎体の楔状変形
・脊損⇒少ない
(脱臼骨折にならない限り)

b.胸腰椎移行部圧迫骨折

発生
転落や、しりもちなど脊椎への垂直軸方向への圧迫力と屈曲力で発生
症状
主に胸椎椎体圧迫骨折と同様
・罹患椎体棘突起の圧痛・叩打痛
・脊損⇒少ない
・大腿神経領域、外側大腿皮神経領域の障害を認める症例がある
・腸の蠕動運動低下
※大腿神経(Ⅼ1~Ⅼ4) 大腿外側皮神経(Ⅼ2~Ⅼ3)

 

合併症
・踵骨骨折(高所からの落下)
・大腿骨頸部骨折(高齢者の転倒)
治療
ギプス固定、硬性フレームコルセット固定
若年者で後弯角20°以上⇒観血療法も検討
整復
・ベーラー法
・反張背臥位整復法
・背臥位吊り上げ整復法

固定
・ベーラー反張位ギプス固定
期間:3か月

 

胸椎の脱臼

交通事故や高所からの落下など高エネルギー外傷で発生
好発部位:胸腰椎移行部
頸胸椎移行部、上位胸椎⇒脊損発生しやすい

 

胸椎部脱臼骨折

胸椎部に背側からの強い直達外力が働き、過度前屈や捻転が強制されて後方靭帯文の損傷や関節突起の骨折が生じて脱臼骨折が生じる
合併症
・脊髄
・胸腔内蔵器
・肋骨骨折
治療
観血的固定術が多い

胸腰椎移行部脱臼骨折

背側からの外力+脊椎の回旋力が働いて回旋脱臼骨折が生じる
症状・所見
・後方靭帯の断裂
・椎間関節脱臼
・上位椎体が前外方転位
・下位椎体中央部に水平な骨折線(スライス骨折)

軟部組織損傷

1.胸肋軟骨損傷

概説
胸肋関節付近の靭帯群、大胸筋付着部、または内外肋間筋や胸横筋などの損傷
胸横筋
起始:胸骨の前面および剣状突起
停止:第2~第6肋軟骨
肋骨を引き下げる作用がある。

 

発生

直達外力:スポーツ活動で胸郭の前後、あるいは左右からの衝撃
介達外力:ベンチプレスなどの過度な負荷、体幹の捻転時の自家筋力
症状
・前胸部の圧痛・腫脹、ときに患部の膨隆
・深呼吸やセキ・クシャミなどの上肢帯や体幹の運動
治療
胸郭や上肢の運動制限
包帯や胸部固定バンド

2.肋間筋損傷

胸部損傷のなかで最多
外肋間筋、内肋間筋、肋下筋などの筋線維の損傷

発生
スポーツ就労などによる体幹の捻転
急激な回旋⇒野球のスイング、ゴルフスイング

症状
・圧痛、深呼吸、せき、くしゃみや体動時の疼痛増強
・外観上の皮下出血・腫脹はみられない
エコー
皮下の血腫:低エコー
筋損傷部の不正像
筋硬結部:高エコー

治療法
軽度:包帯固定、胸部の固定バンド
その後に物理療法
約2週で治癒にいたるものが多い
重度:肋骨骨折と同様。絆創膏や硬性副子

予後
急性発症例:数日で軽減
1~2週しても強い体動痛⇒医科での精密検査(疲労骨折の鑑別)

3.胸部、背部打撲

スポーツ外傷、転倒、転落などで発生
症状
・腫脹は軽度、ときに皮下出血斑
・クシャミ、咳で増強。運動痛。
・可動域制限はみられない。
治療法
軽度:冷シップ
約2週で軽快

4.背部の軟部組織損傷

概説
背部の浅背筋群、固有背筋群、棘間および棘上靭帯などに発生

発生機序
・オーバーアーム動作での菱形筋損傷
・転倒や重量物の持ち上げ
・スポーツ活動中の体幹捻転
・マット運動での過伸展・過屈曲
症状
後頚筋損傷:頸部後屈痛、回旋運痛、体動困難症例もある
肩甲骨周囲筋:上肢外転、挙上時の運動痛
脊柱起立筋損傷:座位保持困難
棘上靭帯:罹患椎棘突起部の圧痛、胸腰椎前屈時痛

治療
・固定で安静
・およそ1~2週で緩解
物理療法
急性期:アイシング、超音波
亜急性期:温熱、超音波、電気療法

エコー観察
・筋内血腫⇒低エコー
・筋線維パターン不正像
・筋硬結⇒高エコー

その他の疾患
脊椎過敏症
成長期の側弯症
ティーチェ病:非炎症性肋軟骨疾患。若い女性T1~4肋軟骨

参考文献

柔道整復学 理論編 第6版 南江堂

fukuchan

柔道整復師、鍼灸師、医薬品登録販売者として治療院を開業しています。 柔道整復師、鍼灸師を目指す学生さん向けに、オリジナルイラストを使って教科書をわかりやすくして発信しています。

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