柔道整復学 理論編 後療法(物理療法)
柔整理論 総論 後療法(物理療法)
物理療法の定義
「物理的エネルギーを利用して, 生体の神経生理学的反応や化学的反応を引き起こすことにより. 損傷部の治癒促進や疼痛抑制および神 経筋機能の賦活を促す治療法」
物理療法を実施する主な目的
・痛みの軽減,筋スパズムの改善.局所循環不良の改善.
分類
( 1 )電気療法:低周波電流療法,中周波電流療法(干渉波療法).その他
( 2 )温熱療法
伝導熱療法:ホットパック療法、パラフィン浴療法、水治(局所浴)療法.
輻射熱療法:光赤外線療法
変換熱療法―電磁波:超短波療法.極超短波療法
音:超音波療法
( 3 )光線療法:レーザー光線療法.その他
( 4 )寒冷療法:伝導冷却法.対流冷却療法.気化冷却療法
( 5 )牽引療法:頚椎介達牽引.腰椎介達牽引
( 6 )その他:間欠的圧迫法.その他
安全対策
各種物理療法の過量刺激⇒望ましくない生体反応を起こす
最多事故:加熱による熱傷. 過冷却よる凍傷
特殊事故:機器による誤作動
適用を誤って疾病や障害の悪化をもたらす危険もある
a物理療法の説明と同意
意義と必要性(理論. 効果など)を簡潔に説明し同意をえる
b.物理療法の禁忌
施行する各種物理療法の禁忌を熟知すること. さらに既往歴や現病歴などを正確に把握し 疾病,障害による適否を正しく判断する.
c.物理療法施行時の患者体位や患肢肢位
患者の年齢や病態により肢位を選択する.
d.物理療法の刺激強度
適量:不快を与えない程度の刺激が最良
治療中に痛みや不快感を与えることは厳禁
過電流による電撃(マクロ・ミクロシック)などが発生しないよう患者をよく観察し異常あれば治療を中止
e.物理療法の変更
経過により種類,量,頻度,強度の調整,または中止などを判断する.
f.自宅でできる物理療法の指導管理
温熱療法、寒愉療法が主となる
温熱.シャワー ドライヤー,水などを用いて行わせることもある.
g.物理療法機器の安全対策
取り扱い上の注意事項を理解.遵守
毎日の始業・終業点検と定期点検に分けて. 保守管理
機器ごとに添付されている使用説明書を熟読して.指定された使用法(危険.警告.注意事項)を厳守
3主要な物理療法
a電気療法
微弱な電流を生体に通電して筋. 神経を刺激し興奮させ生体反応を起こさせる療法. (通電療法)
電気刺激の効果のポイント
①電流強度
②持続時間
③電流の時間的変化の割合(変化率)
神経や筋を刺激する場合
神経の順応や筋疲労をなるべく起こさせないために, 刺激電流波形の振幅. 周波数(㎐) パルス持続時間などを様々に変化させる
神経、筋を興奮させるには⇒一定以上の電流密度が必要
電流密度:電極と皮膚が接触する部分で最も高くなる
脂肪が多い人⇒電流密度が深部達しえず、 神経や筋の興奮がおきないこともある
電流密度と電極のサイズ
大きい⇒電流密度低下
小さい⇒電流密度上昇
電極間の間隔と電流密度
広い⇒深層部が高くなる
狭い⇒浅層部が高くなる
周波数による分類
低周波:周波数999hzまで
中周波:1000~5000hz
電流密度とは:単位断面積あたりを通過する電流量
電気療法は周波数の違いにより、 低周波ボ気刺激療法、 中周波電気刺激療法などに分類される、
①電流強度
電流
・加えた電圧に比例
・抵抗に反比例
⇒抵抗に考慮しなくてはいけない
皮膚電気抵抗:1000~ 1000000Q/cm =電気抵抗が高い
➁持続時間
持続時間が長い⇒弱い刺激で興奮を起こす
持続時間を短い⇒刺激を強めないと興奮しないまた
持続時間を長くすることで.深層部と閾値の高い神経線維を興奮させることができる
③変化率
変化率の大きい距形波刺激のほうが.緩やかに増加する漸増刺激より刺激効果は高い.
1.低周波電気刺激療法
周波数1000Hz未満の電気刺激波形(パルス波)を用いて.想部の組織や神経を刺激する治療法
波形幅が極端に小さく多くの電流は流せないため電流刺激効果は弱くなるが.筋の不快感が少なく心地よい刺激となる.
種類
・経皮的末神経電気刺激療法( TENS)
・高電圧パルス電流刺激療法(HV)
・神経・筋電気刺激療法
など
効果
①疼痛軽減効果
閾値を上げる
脳に痛みの感覚を伝えにくくする(主にマイナス電極での作用が著明)
②血行促進効果
運動神経線維を介して電流が筋に伝達され筋収縮が発生⇒筋のポンプ作用が働く
筋ポンプのメカニズム
弛緩したときには血液が流入,緊張すると血液が流出⇒この働きで血流が改善され,血行が促進される.
不応期を考慮し筋の収縮反応が可能な周波数で通電する必要がある.
(主にプラス電極での作用が著明)
③電気刺激に対する筋の収縮反応を維持する効果
末梢神経完全麻痺で神経からの電気刺激が筋に伝わらない状態になった場合.低周波通電 により正常な神経線維に途中から電気刺激を加え,筋の収縮機能を維持(主にプラス電極での作用が著明)しながら神経麻痺の回復を待つ.
使用上の注意と禁忌
①過電流と感電
水中での使用や濡れた部分での通電⇒感電の危険
電源を切らないで導子を装着し直す場合⇒急激な電流が流れる危険性
➁禁忌
心臓疾患, ペースメーカー使用者, 感染症, 悪性腫瘍. 有熱者. 結核性疾患. 血圧異常, 急性疾思. 極度の衰弱時, 妊婦, 幼児または意思表示のできない人. 血流障害の可能性がある人.
電流値(1秒間) 成人男子の反応および影響(成人女子は2/3, 小児は1 /2)
1mA ビリビリと感じる最小感知電流
5mA 手から手, または足に許すことのできる最大許容電流
10~20mA 離脱電流限界値(持続する筋収縮)
50mA 痛み,激しい疲労,気絶,人体構造の損傷の可能性心臟・呼吸系統は興奮する
100mA 心室細動の発生,呼吸中枢は正常を維持
5A以上 心筋の持続した収縮,一時的な呼吸麻痺,熱傷など
2.中周波電流療法
中周波電流療法では交流正弦波(サインウェープ) 整流電流を使用する
周波数帯:1000~5000Hz未満を使用
正弦波を周波数変調することで,神経・筋が応答できる低周波領域に変調し患部の神経や筋を刺激する治療法
特性:皮膚抵抗が少ない⇒皮膚の侵害受容器への刺激を抑える特性があり,深部組織への刺激に有効.
種類
干渉電流療法
ロシアン電流療法
効果
筋に対する電気刺激の治療効果は,遠心性と求心性の2種に分けられる.
①遠心性効果
運動神経を興奮させて筋を収縮させることでえられる効果で.筋力増強,筋萎縮の防止または改善,筋ポンプによる末梢循環の改善などに用いられる.
②求心性効果
痙性筋の拮抗筋刺激(相反抑制)や, 1b線維を選択的に刺激することで痙性の減弱効果
たとえば, 脳卒中片麻痺患者の下腿三頭筋の筋腱移行部とアキレス腱に対する刺激⇒歩行速度の改善、痙性の減弱との報告
■使用上の注意と禁忌
低周波電流療法の危険性と同し
干渉波治療
2500~5000Hzを使用
二組の導子で異なる2種類の中周波電流を干渉
例
5000Hzと5010Hzを干渉⇒10Hzの干渉波発生
効果
・筋収縮による筋ポンプ
(低周波より抵抗少ないため)
b.温熱療法
温熱を利用した物理療法
目的:温度刺激を加え生体反応を引き出す
熱源
日常的:日光浴、温泉浴
伝導熱:温罨法、パラフィン浴
輜射(放射)熱:赤外線照射、熱気浴(熱気療法)
高周波:超短波、極超短波療法など電気療法
水治療:温浴などがある.温泉療法は.紀元前500年頃から行われていたという記録がある
温熱療法の定義:
熱.電磁波.超波などのエネルギーを生体に供給し.最終的に熱エネルギーが生体に加わることで.循環の改善や疼痛の軽減.リラクセーションなどの生理的反応を引き起こす治療法
したがって循環が増加するとえられる効果を「予想される状態」に対して広く用することが可能であり.とくに痛みの抑制.筋スパズムの寛解,拘縮の寛解と関節可動域の拡大.代謝機能の促進.血腫の消退などの効果が期待できる.なお.事前に必ず熱くなったら知らせるよう指示して.事故防止に努める必要がある.
b-1.伝導熱療法
表面加然ともいわれ体表面に熱源を接触させ.生体に温熱を伝導させる治療法である.
l.ホットバック療法
分類
・湿熱⇒保温性の高いシリカゲル、ベントナイトを袋にいれ加湿器で加温。乾熱より熱伝導大きい
・乾熱⇒ビニールパック、電熱式
温度上昇
皮膚温が最高到達時間⇒治療を開始してから7 ~ 12分後で. 5 ~ 10℃上昇
ホットパック療法では. 含水率の高い組織(末梢血管、皮膚)ほど過失されやすい
1~2cmの深さの筋⇒最高温度に到達するまでに15分以上かかる.
3cmの深さの筋⇒温度上昇は1 ℃以下。脂肪組織が多い部位は特に筋組織に伝導しにくい
効果
1.視床下部の温度調節機構の作用で血管拡張作用のあるヒスタミン様物質の分泌
➀皮膚の毛細血管が拡張
➁皮膚内の血流は2倍以上
➂血行が促進され痛みの産物であるヒスタミン,プラジキニンが除去されて痛みが軽減
2.皮膚温度受容の熱刺激によりγ線維の伝導が遮断⇒筋紡錘の活動の低下により一過性に筋緊張が軽減
適応と効果
①疼痛の寛解
打撲,捻挫などの外傷後の痛み,関節リウマチ,変形性関節症,変形性脊椎症,腰痛症,肩関節周囲炎,術後の痛み,筋肉痛,腱鞘炎,各種神経痛など
②筋スパズムの寛解:筋疲労や疼痛による二次的筋スパズム,いわゆる肩凝りなど
③中枢神経麻痺による筋痙性の寛解
④局所の浮腫軽減
⑤血行改善
⑥理学療法施行の前処置,関節拘縮に対する矯正,瘢痕組織の軟化,低周波通電前の皮膚電気抵抗の低下,運動療法・牽引療法の前処置など
使用上の注意と禁忌(とくに湿熱式を使用する揚合)
①熱傷の誘発要因
i )タオルの枚数を少なくしないようにする(おおむね8 ~ 10枚).
ⅱ )ホットパックはよくお湯を切り. タオルからはみださないようにする.
ⅲ )感覚障害がある部位は熱傷に十分注意するか, または治療をしない.
ⅳ )軟部組織の少ない骨突出部などに注意する.
②ホットパックの位置
ホットパックを身体の下において使用しない(熱の逃げ場がなく.ホットパックの縫い目からべントナイトなどが押し出されるおそれがある).
③脱水症
i )自律神経障害がある場合,発汗障害に注意する.
ⅱ )小児や高齢者が対象の場合は注意する.
ⅲ )2か所以上の広範囲に行う場合は飲料水を用意し脱水に注意する.
④治療時間
i )治療時間が長引くとホットパックの温度が低下し 逆に治療部位の熱を奪ってしまう.
ⅱ )通常20分を目安とする(長時間必要な場合は, 途中でパックを取り替えて使用する).
⑤保管
長期間放置するとカビが発生する場合がある.使用しないときは乾燥させて保管する.
2.バラフィン浴療法
パラフィン浴装置で融点43 ~ 45℃の固形パラフィンと流動パラフィンを100: 3の割合に混ぜ合わせ加温し溶解したパラフィンの中に直接患部を浸ける.
パラフィンは熱伝導率が小さい (水の0.42倍)⇒熱がゆっくり生体に放出される,熱傷を起こしにくい
比熱がきわめて高く.パラフィン槽から患部を出してからもなかなか冷めない.
パラフィンは空気に触れると.皮膚ー薄い空気層ーパラフィン被膜の層構造となり,保温性が高い.パラフィン自体は水分を含ます乾熱だが.発汗による汗が被膜との間にたまるので.実際は湿熱的性格を持っ.
通常は上肢. 下肢に限られる. 手指や足趾のように凹凸のある形状の複雑な部位でも細部まで一様にパラフィンが付着し, 均等に加温できるのが特長である
使用法(間欠浴)
①治療部位を十分に洗浄し乾燥させる.
②治療部位より少し広範囲を浴槽内に浸して. 2 ~ 3秒したらゆっくり引き上げる.
・被膜が破れないように関節は動かさないこと. 層を均一にするため引き上げ速度は一定にする.
③パラフィンが白く固まったら,再び浴槽に治療部位を浸す(5 ~ 10回繰り返す).
[ ・熱傷を防ぐために1回目より遠位で作成し. 先の被膜が溶けないよう長時間は浸けないよう注意する. ]
④パラフィンの被膜ができたら治療部位をピニール袋でおおい, さらにバスタオルで15 ~ 20 分程度保温する.
⑤治療終了後. パラフィンの被膜を除去する. 除去したパラフィンは可燃ゴミとして破棄できるが.汚染していなければ再利用できる.
適応と効果
①拘縮のある関節に対しての運動療法前処置
②軟部組織の伸長性の向上
③関節水腫があるものを除く関節炎(関節リウマチなど)
④頸肩腕症候群および中枢性麻痺に伴う手指先端の感覚異常, 痛み
⑤腱鞘炎
⑥変形性関節症など(手関節, 指, とくにヘバーデンHeberden結節の痛み)
⑦治療後, 皮膚はラノリン効果により艶やかになり, 美容上の効果もえられる.
使用上の注意と禁忌
①パラフィンバス内のヒーターに近い槽底部と表面の温度が異なることがあるので,十分掻き回して温度を均一にして使用する.
②反復法で行う際,パラフィンの被膜が破れると熱いパラフィンが流入するので.破れた際は初めからパラフィングロープを作り直す.
3.水治(局所浴)療法
四肢の温浴に使用する四肢浴装置
上肢専用の上肢浴装置,下肢専用の下肢浴装置.上下肢用の上下肢浴装置がある.
これらの温浴装置では,湯の中で気泡を発生させる,いわゆる気泡浴装置と,渦流(噴流)を発生させる渦流(噴流)浴装置がある.気泡浴装置は.温浴による温熱効果と,湯の中で発生させた気泡による圧刺激,気泡が破裂するときに生じる超音波刺激などが相乗的に作用するとされる.渦流浴装置は,温浴による温熱効果と,渦流による圧刺激がえられる.
使用法
上肢および下肢のみを浴槽に浸水し,エジェクターから噴出される気泡を含む水流や気泡などにより,患部に軽度の物理刺激を加える.局所浴中は浴槽内でも自動的・他動的関節可動域運動を実施する.
適応と効果
温熱効果,マッサージ効果
骨折後,打撲,捻挫,腱鞘炎.関節拘縮,疼痛.筋スパズム,関節のこわばり.血流改善など
■使用上の注意と禁忌
心臓疾患.感染症,悪性腫瘍,有熱者.結核性疾患.血圧異常.急性疾患.極度の衰弱時.妊婦,アトピーなどによる感覚・皮膚過敏症.幼児または意思表示ができないもの.
・罨法
疼痛.炎症.充血などを除去するために水.湯.薬などで想部を温めたり冷やしたりする治療法.
乾性と湿性.温然と熱との組み合わせによる刺激を患部あるいは全身に与えて.循環系および神経系に影響を及ばし.思部の状態の好転と自覚症状の軽減を図ることを目的とする治療法.
①湿性の冷罨法・・・冷湿布.パップ
②乾性の冷罨法・・・水嚢.水枕.水枕
③湿性の温罨法・・・温湿布.蒸気浴.ホットパック.温浴療法
④乾性の温罨法・・・熱気浴.ホットパック.湯たんば.カイロ
輻射熱療法
I.赤外線療法
赤外線は電磁波の一種で,放射されるとその通路にある物体に吸収されて熱を発生する.これは,赤外線の波長が分子の固有振動数の波長と同程度の範囲にあるため.物質に電磁的な共振が起こり,エネルギーが無駄なく吸収されるためである.この赤外線の輻射により生じる温熱効果を治療に応用したのが赤外線療法である.
赤外線の種類:波長760nm ~ 1 mmの電磁波で,波長域によって深達性が異なる.
①近赤外線(波長760 ~ 2.500 (m) :皮膚をよく透過する(照射透過度10 mm).
②中間赤外線(波長2,500 nm ~ 025 mm)
③遠赤外線(波長025mm以上) :表皮で吸収される(照射透過度4mm).
効果
①主な効果:温熱作用
局所的. 全身的. 反射的な特性がある. ほかには皮膚血液循環量の増加や新陳代謝促進.鎖静作用.消炎作用など
②赤外線の温熱効果は皮膚長面の浅層に限られるので. 皮膚に選択的に温熱効果を与えることができるが.身体の深品は温熱効果がえられない.
効果
腰痛.肩凝り.捻挫.筋違い.しもやけ.変形性関節症.関節リウマチ.関節炎.腱鞘炎. 五十肩.結合組織炎.神経痛.神経炎.料肖性顔面神経麻痺.慢性皮膚疾患.慢性湿疹.強皮症.慢性中耳炎.慢性副卵腔炎などがある.
使用上の注意と禁忌
①ほくろやシミ.黒い衣服などは熱が集中しやすいので注意を要する.
②長時間や広範囲の照射は未抦部の血管を拡張させ血圧低下を招き.失神や頭痛.めまいが起こりやすくなる.また.広範囲な照射では発汗に伴う大最の水分喪失から.脱水症を起こす危険があるので.照射前後に水分をとる必要がある.
③急性炎症.化膿性疾思.内出血の危険のある疾患.低血圧.悪性貧血などが禁忌である.ま
た.思部に血行不全や皮膚感覚低下がある場合も禁忌となる.
b3.変換熱療法
熱以外のエネルギーを輻射し. 生体内で変換して発生させた熱(エネルギー変換熱を利用した治療法
電磁波や超音波などは体内で吸収されて熱エネルギーに変換される. この熱エネルギーを利用するのがエネルギー変換熱療法である.
電磁波の周波数
2.450Mhz;マイクロ波
27MHz:超短波
1~3MHz:超音波
程度のものを使用する.
1.超短波療法(ジアテルミー)
現在ではあまり使われていない.
高周波の電流または超音波を用いて身体の一部に発生した熱を利用して治療を行う療法
高周波電流によるものすべてをさす場合があるが,狭義には周波数1 MHzのものをさす.
2.極超短波療法(マイクロ波療法)
波長12.5cm ,すなわち周波数2,450MHzのマイクロ波を使用することが決定(1947)
原理
マグネトロンと呼ばれる特殊な2極管により極超短波を発生させるもので,生体の深部組織から温め,とくに水分をよく含む筋膜付近を温めるという生理作用がある.
注意点
金属をよく加熱することから,体内にペースメーカー,金属類が入っている患者に対しての使用は禁忌
使用法
①できるだけ楽な姿勢
②アンテナを治療部位から5 ~ 10cm離して照射部位に直角に当たる
③治療時間を15 ~ 20分に設定
④患者が心地よいと感じる程度まで徐々に出力を上げる.
⑤治療中は熱すぎないか患者の反応をみる.
適応と効果
疼痛の軽減,筋スパズムの軽減,局所の循環の改善,急性期症状のない慢性疼痛疾患など.
①関節リウマチ
②腰痛
③変形性関節症
④打撲,捻挫,脱臼,骨折の回復期の疼痛
⑤腱鞘炎の回復期の疼痛
⑥肩関節周囲炎
使用上の注意と禁忌
①患者の体内にペースメーカー、人工骨などの金属部品が埋め込まれている場合は治療を行わない.
刺青,補聴器,電子機器,カード類にも注意が必要である.
②感覚障害部位の治療を行わない.
③治療対象部位,衣服,ポケット内などにネックレス,指愉,携帯電話.カギ.コイン.携帯カイロなどの金属類がないことを確認して治療を行う.
④骨端軟骨. 眼球, 睾丸, 妊婦の腹部に治療を行わない.
3.超音波療法
人の耳で聞こえる高周波の周波数は20kHz以下, それを超える周波数帯の音波を超音波という
超音波発生原理
高周波電流発生回路から出力される高周波電流が同軸ケープルを通して治療導子プローブへ流れ, 治療導子の金属板に組み込まれているチタン酸ジルコリアの結品に流れることによって結品の形態的変化が起こり,前面の金属板に振動が伝わり超部波を発生させる
治療周波数
1MHz:深層部位(筋膜から骨)
3MHz:浅層部位(筋膜まで)
照射時間率(ディーティ比):照射している時間と照射してない時間の割合
照射時間率100%「連続」:温熱効果
照射時間率20 ~ 50%「パルス」:非熱効果(機械的効果)
超音波治療を行う際には,超音波伝播物質である超音波用ゲルを使う(超音波がゲルにより伝播する).
超音波の導子
良好な導子
良品
有効照射面積(ERA): 超音波が発射されている面積。導子全体面積に近い導子
超音波平均強度W/cm²(BNR): ビームがどれだけ不均等なビームが出ているか。数字が1に近いものが良品
使用中は、ストローク法、回転法を利用して動かしながら行う
適応と効果
温熱効果と非熱効果(機械的効果)に分けられる.
①温熱効果
ⅰ)組織の伸展性を高める.
ⅱ)血流の改善を行い循環不全による疼痛の緩和
ⅲ)筋紡錘の緊張をなくし筋スパズムの改善
iv )骨格筋の収縮機能を改善
②非熱効果
ⅰ)微細振動により細胞膜の透過性や活性度を改善し,炎症の治癒を促進する.
ⅱ)細胞間隙の組織液の運動を活発にして浮腫を軽減させる.
使用上の注意と禁忌
①悪性腫瘍,感覚障害,虚血部位がある患者の使用は禁忌
②発育期の骨に照射しない.
③超音波の確実な伝播には,治療導子面をしつかり患部に密着
④ーつのポイントに対して,有効照射面積の1.5~ 2倍を治療範囲とする
広い範囲はポイントを変えて同じように行う.
⑤治療導子を極端に速く動かさない.
⑥治療導子を落としてしまった場合はメーカーで検査を受ける
c.光線療法
光線とは
一種の電磁波であり. 波長スペクトルでは. マイクロ波とⅩ線の中間に位置している.
赤外線は熱線であるが, マイクロ波に近い波長領域の遠赤外線と可視光線領域に近い波長領域の近赤外線に分類される. 光線療法にはレーザー光線療法(近赤外線療法) , 紫外線療法などがあり.運動器疾患に対して現在汎用されている光線療法で照射される光線の大部分が近赤外線である.光線療法の生理的作用としては.遠赤外線に代表される温熱作用.紫外線に代表される光化学作用があり,光化学作用は光線の照射出力でなく光線の種類が本質的に重要となる
レーザーとは
レーザー発振器を用いて作り出された人工的な電磁波であり.使用される媒質により半導体レーザーとガス(気体)レーザーに分類される.
機器の普及率⇒半導体レーザーのほうが多い
物理療法用レーザー:原則として1w以下の微弱な出力で照射。 一般に照射に伴う熱作用は認められない.
このような微弱な低出力照射で行われるレーザー治療は. 低反応レベルレーザー療法(直線偏光近赤外線療法)と呼ばれている.
組織深達度の高い近赤外線のみを取り出して照射する機器もある.
光線療法の実施には照射距離と照射角度を適切にして安全で効率的な照射を行う必要がある.
1.低反応レベルレーザー療法
・低反応レベルレーザー光は組織への刺激作用がなく, 機序は光化学作用に基づいている
・無侵襲で患者の治療
・その作用いまだ不明な点も多い.
レーザー物理的特徴
可干渉性.単色性,指向性があるが.自然光との大きな違いとして,ほとんど広がることなく直進的に伝播する
同一の照射出力の自然光と比較して高輝度(高密度)になる
一般に,照射に伴う患者の自覚的感覚の変化はほとんどない.
使用法
非接触法,接触法,圧迫法があり,特殊な場合を除いて生体深達性が高い接触法や圧迫法が推奨される.
①照射前に保護メガネの装着の必要性を説明する(もしくはレーザー光を直視しないよう指導する).
②照射部位をあらかじめ確認しておく.
③照射強度・時間は, 1部位1回20分以内を隔日照射する(機器メーカー推奨).
適応と効果
①創傷治癒促進作用
②消炎作用
③疼痛の緩和作用
④血流改善作用
⑤殺菌作用
⑥免疫抑制作用
⑦生命体の活動の促進作用
使用上の注意と禁忌
①使用上の注意
i )眼に対する反応:レーザー光は損傷リスクが高い光線であるという報告がある.
ⅱ )関節への連続照射:滑膜に充血,出血,細胞浸潤を生じるという報告がある.
ⅲ )患者の不安解消:治療前に術者自身の手などに照射して安心させる.
②禁忌
i )悪性腫瘍
ⅱ)甲状腺部,眼球,睾丸など
ⅲ)新生児,乳児のように応答困難な患者
ⅳ)高齢者や体力消耗疾患患者
寒冷療法
寒冷療法とは
各種の冷媒(液体. 固体. 気体)を用いて患部を冷却し. 生体の持つ熱エネルギーを損失させることで局所循環動態や神経筋系に対して促通. 抑制の生理的効果をなえる物理療法
作用機序
・受傷後48時間以内の冷却は損傷組織の代謝を減少させ. 痛みの抑制効果
・筋骨格系の外傷では筋スパズムの寛解と感覚神経の伝導抑制によって痛みを軽減
冷却後に運動療法を実施すると. 筋スパズムと痛みを減少することによって運動療法の効果が増す.
効率的な冷媒:氷塊(凍傷に注意)
効果的な温度:皮膚面で10~18℃ 正確な温度コントロールが必要
末梢循環改善:12℃の冷却と40温浴5分を交代で行う温冷交代浴が効果的
寒冷療法の生体反応
➀組織温度
i)冷却部位の皮膚表面温度が急激に低下
ii)熱伝導により皮下組織の温度が低下
皮膚温、皮下組織の温度は冷却終了後から上昇
ⅲ)深部組織の温度低下が生じる.
深部組織の温度は冷却後しはらく低下し続け.その後徐々に上昇
ⅳ)組織温度の上昇は、冷却による温度低下よりも緩慢で.数分から数時間は回復しない.
v )皮膚温が一0.5 ℃まで低下⇒凍結.細胞破壊
②循環系
i )皮膚表面の局所的な冷却によって.表在血管の部分的な収縮が起こる.
組織温20℃以下:ゆっくりとした全体的な血管起こる.
組織温10℃以下:反射作用により急速で全体血管収縮が起こる(、・次的血管収縮).
ⅱ)一次的血管収縮
a .組織での酸化活動:酸素化へモグロビン離が起こらなくなる.
b .リンパ液の生成.浮腫や腫脹の形成:血管収縮によって減少する.
[・外傷直後に実施する冷却が応急処置として有効になる生理的作用である.ー
c .手指などの急激な冷却では.一次的血管収縮に続き二次的血管拡張が起こる.
ⅲ )二次的血管拡張
冷却開始後8 ~ 16分の間で, 2 ~ 6℃の振幅での不規則な皮膚温変化(乱調反応)がみられる.
・動静脈吻合部での血管拡張で.神経性の反射機構によるものと考えられている.
③神経.筋
i )神経.筋への影響
a .受容器や神経線維の閾値上昇 b .神経伝導速度の低下
c .神経・筋接合部での活動低下
ⅱ )神経,筋の生理的変化
a.筋紡錘のインパルス発射速度
・38℃ → 28℃への冷却で直線的に低下し. 50 ~ 80%減少
・25℃以下ではインパルスの発射が不規則になり. 20℃以下では停止
b.末梢神経伝導速度
・皮膚温の低下と直線的な関係を示し1 ℃の低下で1.1 ~ 2.4m/秒低くなる.
・無髄神経線維のほうが.冷却による神経遮断に強い
ⅲ )神経系の活動
a.触覚, 冷覚→筋力→血管収縮→痛み, 粗大な圧迫感の順序で低下
b.冷却によって, 神経, 筋の興奮伝導に関わる化学反応の低下
ⅳ)ァ運動線維の抑制と筋紡錘の興奮低下, 関節周囲組織の粘性増加, 足クローヌスの軽減.
アキレス腱反射の減弱なども報告されている.
④代謝
i)冷却によって代謝は低下( 10℃低下ごとに半減)し,組織細胞の酸素需要は減少
ii)代謝の抑制は,急性外傷に対する寒冷療法のもっとも重要な効果である
.
⑤結合組織および関節
組織の粘性が高まり,伸長に対する抵抗が増加する.
⑥筋力
i )筋力:前腕部の冷水浴(10~ 15℃ )を30分行うと,握力は反対側の60~80%に低下
ⅱ)筋持久力: 18℃の冷却による筋温25ー29℃の条件ー長時間の収縮維持が可能(それよりも高い温度,もしくは低い温度では持久力低下)
冷却法の種類
1.伝導冷却法
2.対流冷却法
3.気化冷却法
1.伝導冷却法
氷やアイスパックなどの低温物体を,直接または間接的に接触させることで.生体の熱エネルギーを吸収する冷却法である.スポーツに急性外傷が発生した際にアイスパックを用いて
RICE処置を行うことが一般的になっている
適応と効果
①炎症級和(浮腫.腫脹など)
②局所の疼痛軽減
③有痛性筋スパズムの袿減
④中枢性神経疾想、の痙性軽減
⑤神経.筋の反応抑制および促通
⑥褥瘡の治癒促進
.
使用上の注意と禁忌
①循環器系疾患を有するもの
②レイノー(Raynaud)病
③寒冷アレルギーを有するもの
④感覚障害のある部位
⑤心臓および胸部
⑥寒冷に対して拒否的なもの(とくに高齢者)
・主要な末梢神経が表在を走行する部位での氷塊による冷却には注意が必要である
(例=上腕骨内側上顆後方の尺骨神経.腓骨頭後方の総腓骨神経など)
2.対流冷却法
①寒冷浴
アイスパックなどに比べて, 寒冷浴は大量の水を用いるので冷却効果は高いが, 適応部位が手部や足部に限定される. 一般には, 渦流浴の機器を用いんか洋急性外傷の場合では流水またバケツなどの容器に冷水を入れて代用することもある.足関節の外傷などでは,足趾が凍傷にならないよう,フットカバーなどで保温した状態で.部を冷水に浸して冷却する.
②極低温冷却療法
液体窒素や特殊な機器を用いて,空気を冷やして患部に噴射する治療法
特徴
水分をほとんど含まない冷気を噴射するので凍傷の危険性が少ないこと,
排水設備いらない
➂気化冷却法
揮発液を塗布,または噴霧し気化熱で冷却する治療法
コールドスプレーなど
冷却効果:非常に高い。凍傷の危険性があるため,連続して同一部位への噴射はできない.
効果時間:短時間。深部組織までの冷却はできない
牽引療法
頸椎介達牽引
上位頸椎から上位胸椎の疾患に対して下顎部と後頭部に係蹄をかけて行う方法で. 一般にはグリソンGⅱsson係蹄による牽引が行われている.
姿勢
持続牽引:臥位
間欠牽引:坐位
頸椎の位置:軽度屈曲位(頸椎の高位によって調節する)
頸椎 角度
上位頸椎 0~15°(垂直牽引)
中位頸椎 15~30°
下位頸椎 30~45°
上位胸椎 45~60°
※実際は20~40°で行われる。 60°屈曲は難しい
■適応と効果
①頸椎症性神経根症.軽度の頸椎症性脊髄症
②いわゆる肩凝り
③頸部から上肢への不定愁訴
禁忌
①悪性腫瘍. 脊椎カリエス, 化膿性脊椎炎. 強直性脊椎炎. 関節リウマチの場合
②頸椎の不安定性が認められる場合
③胸郭出口症候群に由来する頸肩腕痛がある場合
④外傷に由来する症状のうち急性期の場合
⑤骨粗鬆症が著明な場合
設定重量
目的・設定 重さ
スタート: 3~4㎏(体重の1/10)
最大重量 :15㎏
神経根、椎間関節の除圧: 9~13.5㎏
腰椎牽引
腰椎牽引 牽引力の範囲 :体重の1/3~1/2
最大重量:体重の1/2まで
筋スパズム、椎間板内圧軽減:体重の1/4
椎間関節拡大 :体重の1/2
姿勢:セミファーラー肢位(15~30°屈曲)
適応と効果
①神経根圧追徴候を認める場合
➁筋緊張が主体である腰痛症
使用上の注意と禁忌
①悪性物瘍. 脊椎カリエス,化膿性脊椎炎. 強直性脊椎炎. 関節リウマチ
②外傷に由来する症状のうち急性期の場合(急性腰痛も含む)
③神経炎や癒着が発症の主体と考えられる場合
④骨組鬆症が著明な場合
その他
身体に機機的刺激を加えて行う物理療法として圧追療法がある. 物理療法機器を使用した圧迫療法としては,間欠的空気圧迫ポンプを用いた方法がある.
l.間欠的圧迫法(メドマー)
ゴム製スリープを目的の四肢に装着しスリーブへの空気の注入と抜去を間欠的に繰り返すことによって,目的部位に外圧を加えて静脈血の題流を促進しようとする方法である.
浮腫の治療ではパンピング法, 波動マッサージ法などと呼はれている
設定
上肢:30 ~ 60mmHg
下肢:40 ~ 80mmHg
総治療時間は2 ~ 3時間程度( 1回あたり20~分)が推奨されている.
・適応と効果
①浮腫(静脈不全による浮腫.リンパ浮腫)
②深部静脈血栓など
使用上の注意
リンパ管自体がきわめて微細な構造であるので.弱圧で長時間施行することが望ましい
・強すぎる圧追は.リンパ管などの組織損傷を引き起こす危険性がある
禁忌
①心不全または肺水脈
②急性の深部静脈血栓症. 血栓性静脈炎. 肺塞桍症
③重度の末梢動脈疾患や動脈不全による潰瘍
④急性期の局所皮膚感染
⑤骨折の急性期, その他の外傷. 急性炎症
⑥悪性腫瘍など
参考文献
柔道整復学 理論編 第6版 南江堂
物理療法実践マニュアル 文光堂 川口浩太郎
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