柔道整復学 理論編 手関節および手部 軟部組織損傷
手関節 軟部組織損傷
1.三角線維軟骨複合体損傷(TFCC損傷)
※三角線維軟骨複合体
・三角線維軟骨
・尺骨三角骨靭帯
・尺骨月状骨靭帯
・掌側橈尺靭帯
・背側橈尺靭帯
・尺側側副靱帯
・三角靱帯
発生機序
転倒で強く手を衝く
手関節方前腕にかかえての捻じり外力(とくに回内力)
手関節の使いすぎや変形⇒軽微な外力で発生
変性⇒突き上げ症候群
症状
➀運動痛⇒回内回外で疼痛とクリック。尺屈痛
➁TFCCテスト(+)
➂圧痛部⇒尺骨頭と手根骨間
➃関節不安定性⇒尺骨茎状突起がある場合
治療法
原因となる動作の中止
患部の安静を図る
症状改善みられなければ⇒観血療法
※
・損傷等した靱帯やTFCCの縫合・再建術や滑膜切除術
・尺骨骨切り(短縮)術
2.ド・ゲルバン病
概説
伸筋支帯の第1区画内を通過する長母指外転筋腱と短母指伸筋腱の狭窄性腱鞘炎
20代と50代女性に多い(ホルモン代謝変化が関係している説)
両側性⇒少ない
利き手⇒関係ない
発生機序
手関節、母指の過度の使用
症状
手関節、母指の運動時痛
第1区画に圧痛、腫脹、硬結
フィンケルスタインテスト(+)
治療法
第1指を良肢位、前腕中央からIPまで固定
1~2週安静。熱間あれば冷罨法
症状改善みられなければ⇒観血療法
3.末梢神経損傷
手根管症候群
概説:絞扼神経障害で一番頻発。手根管内を通過する正中神経が圧迫されて発生
骨折、脱臼の合併症として発生することがあるが、多くは原因不明
女性に多い。閉経後に発症することがある
発生:トンネルの狭小化を招く要因
・変形性関節症
・関節リウマチ
・ガングリオン
・屈筋腱腱鞘炎
・脂肪腫
・透析によるアミロイド沈着
症状
➀第1~4指掌橈側半分までのシビレ⇒早朝に強く、手を振ると軽くなる
➁疼痛⇒手関節、手指
➂筋力低下(萎縮)⇒母指球
➃巧緻運動障害
⑤チネル、ファーレン(+)
治療法
原因動作の中止、局所の安静
症状改善みられなければ⇒観血療法
・尺骨神経管症候群(ギヨン管症候群)
概説:ギヨン管(尺骨神経管)部での神経絞扼によって発生
ギヨン管の構成:豆状骨、有鉤骨鈎、掌側手根靭帯
発生
・手指部の打撲
・サイクリング
・ハンドルでの長時間の圧迫
・手を衝くスポーツ
・ガングリオン
症状
➀4、5指のシビレ感、疼痛
➁鈎爪指変形、フローマン徴候
➂巧緻運動障害
➃感覚障害⇒手の掌尺側
※手背尺側は免れる
痛み 痺れ フローマン徴候 鈎爪(鷲手)
肘部管症候群 肘内側 手背、手掌の尺骨N領域 + +
ギヨン管症候群 手指尺側 手掌の尺骨N領域 + +
治療法
原因動作の中止、局部の安静
症状改善みられない場合⇒手術
4.キーンベック病(月状骨無腐性骨壊死・月状骨軟化症)
(発生)
何らかの原因により月状骨の血行が遮断されて発生
・若年者⇒スポーツ活動で発生
・中高年⇒手関節の酷使
(症状)
➀手関節の運動痛
➁可動域制限
③握力低下
※進行例で変形性関節症
Ⅹ線による病気分類
ステージ1:異常なし
ステージ2:硬化像
ステージ3:圧潰像
ステージ4:変形性関節症像
治療法
原則:保存療法
安静目的でギプス・装具固定
温熱療法、手関節のストレッチ
症状改善みられなければ⇒観血療法
5.マーデルング変形
概説
橈骨遠位関節面が掌屈尺屈し、尺骨遠位端が背側へ突出した手関節の変形(銃剣状変形)
(発生)
思春期の女性に多い
遺伝性のものある⇒両側性に出現
橈骨遠位端掌尺側の骨端線早期閉鎖⇒橈骨遠位関節面が傾斜。手根骨逆三角
尺骨⇒ほぼ背側脱臼(正常に発育するため)
鑑別疾患
骨折、骨隨炎での変形
(症状)
➀疼痛
➁運動制限(背屈、回内、回外制限)
③銃剣状変形
生活上の支障はあまりない
手・手指部の損傷
1.腱・靭帯の損傷
概説
伸筋腱損傷⇒発生多い
屈筋腱損傷⇒ラガージャージーフィンガー、有鉤骨鈎骨折後の二次的損傷
ノーマンズランド
手掌側でMP~PIPまでの部分は、手術をしても癒着・障害を残しやすいとされていた。
近年は、外科の発達によりサムワンズランドと呼ばれる。
a 指側副靭帯損傷(第1MP関節、第1指以外のPIP関節側副靭帯損傷)
スポーツ現場で遭遇する損傷
a-1第1MP関節側副靭帯損傷
概説
スキーの転倒時に発生しやすい。(スキーヤーズサム)
ゲームキーパー母指
母指MP関節はピンチ動作に重要⇒側副靭帯が支持機構
発生機序
スキーの転倒時にストックが引っ掛かる
球技中に外転強制され発生
尺側に発生するとが多い
尺側側副靭帯損傷
ステナー損傷
断裂した尺側側副靭帯が近位へ反転し、母指内転筋腱膜の表層に乗り上げたもの
⇒観血療法
ステナーは手術!
症状
損傷部に圧痛、腫脹、皮下出血、側方動揺性
臨床では不全断裂か完全断裂かを判断することは難しい
完全断裂
皮下出血が著名
ストレス不安定性や疼痛が強い橈側や尺側に変位する場合もある
その場合ステナー損傷を起こしていることが多く触診で側副靭帯を触れるものである
不全断裂
腫脹、皮下出血、疼痛も軽度ストレスを加えても不安定性は僅か
関節掌側に圧痛皮下出血斑が掌側に限局している場合⇒掌側板の断裂が疑われる
側方動揺テスト
副靭帯、掌側板を弛緩させた MP 関節屈曲位で行うことが重要である MP 関節伸展位では副靭帯や掌側板が健全な場合これらの支持性により側方への動揺が出現しにくい
新鮮例では愛護的に実施しなければ完全断裂に移行
固定法実技の教科書
後療法実技の教科書
第1指以外の PIP 関節副靭帯損傷
バレーボール、バスケットボールコンタクトスポーツ時に発生することが多く発生頻度は橈側に多い
第1MP関節側副靭帯損傷同様に損傷部の腫脹や疼痛側方動揺性
治療
保存療法:アルミ副子、 PIP 伸展位で約3週固定
ロッキングフィンガー
第1 MP 関節ロッキング
※第1MPロッキングと2~5指ロッキングのメカニズムは違う
概説
掌側板膜様部が横に断裂してその断裂部から中止骨頭が突出し中手骨橈側隆起を乗り越えた掌側板と副靭帯が中手骨頭を絞扼し発生
発生機序
第1 MP 関節過伸展
症状
第1 MP 関節過伸展位自動他動を問わず屈曲不可能
IP 関節屈曲動揺性見られない
整復
4第1 MP 関節を屈曲し基節骨基部背側に両母指を当てさらに第1 MP 関節の屈曲を増強し軸圧を加えながら両母指手基節骨基部を背側から強く押し込み掌側板を押し出す
牽引を加えるまたは暴力的な整復動作を行うと整復を困難にしたり骨折を起こす可能性があるので愛護的に行う。
第2~第5 MP 関節ロッキング
解説
中手骨骨頭の掌橈側に骨棘が形成されて骨隆起に副靭帯が引っかかりロッキングを生じることが多い
日本人で2指に次いで第3指に多い
20代から40代の女性の右手に多い
発生機序外傷はほとんどなく何らかの拍子に突然に発生することが多い
症状
突然に MP掌橈側に圧痛と軽度の主張を認めるが MP 関節を伸展しなければ疼痛は軽度
ばね指(弾発指)
概説
掌側にある靭帯性腱鞘が炎症性変化などにより狭窄され発生
成人では中年女性に好発
母指に最も多い
症状
初期:運動時の疼痛
進行:弾発現象が現れる
可動域制限が見られる自動運動では進展または屈曲ができなくなる
運動制限⇒ IP 関節に発生(狭窄部は MP 関節部である)
治療
手指の運動を制限
3、4週間の安静保持
症状が軽減しないもの観血療法
小児のばね指
一歳から2歳頃に発症
原因は先天的な腱鞘の狭窄あるいは腱の肥厚
発生⇒母指に発症
一般に6歳から7歳までに自然治癒
腱の活動性が強く制限⇒強剛母指
デュピュイトラン拘縮
手掌腱膜の拘縮により生じる指の屈曲拘縮
多くは手掌部の近位側の手掌腱膜に結節を形成する
次第に体に拡大し連珠様の削除物を形成最終的には手指の屈曲拘縮を生じるもの高齢男性に多い一般的に両側性時に変則
発症
糖尿病、生活習慣病、微小血栓過剰な禁煙喫煙などが原因とされているが明らかではない
発生部位:4、5指
MP関節についでPIP関節に徐々に屈曲拘縮を生じ完全伸展が制限されていくが PIP 関節は屈曲拘縮が出現しない
疼痛:稀
ヘバーデン結節
ヘバーデン結節は PIP 関節の変形性関節症である
初期は発赤、熱感、腫脹、疼痛
第2 D IP 関節背側部に結節骨性隆起を形成し屈曲変形、側方変位といった変形変形が完成すると炎症症状は消失する
更年期を過ぎた女性に好発し、ほとんどが両側性で多発性である。
関節リウマチスワンネック変形と類似鑑別が必要
PIP 関節の変形性関節症→ブシャール結節
ボタン穴変形
PIP関節屈曲 DIP 関節過伸展の変形
橈尺両側の側索の間からボタンがボタン穴から出ているように見えるためこの名称である
原因
・外傷による正中索損傷関節
・リュウマチの滑膜炎
症状
PIP 関節は指屈筋群によって屈曲次第に側索は運動軸よりも掌側に移動しPIP関節をさらに屈曲させると共に D IP 関節を過進展させてボタン穴変形を生じる
外傷による正中索断裂
⇒受傷直後は PIP 関節が伸展可能
⇒損傷が見逃されやされやすく一週間から2週間後にボタン穴変形を生じることが多い
固定 PIP 関節伸展位で4週間から8週間固定し保存療法を継続
改善見られなければ観血療法
スワンネック変形
DIP 関節屈曲 PIP関節過伸展
原因
関節リュウマチや手の痙性麻痺:手内筋の拘縮では MP 関節の屈曲拘縮
⇒相対的に側索よりも正中索の緊張が高まることで伸筋と屈筋のバランスが崩れスワンネック変形が発生
浅指屈筋腱断裂、終止腱断裂(マレットフィンガー)、掌側板の損傷など放置
⇒PIP関節過伸展、側索がPIP関節の運動軸より背側に移動し、スワンネック様変形を呈する
G注意すべき疾患
➀関節リウマチ
➁循環障害
➂ひょう疽
➃グロムス腫瘍
⑤痛風
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