柔道整復学 理論編 下腿部の軟部組織損傷
下腿部の軟部組織損傷
アキレス腱の構造
アキレス腱は腱鞘がなく、かわりにパラテノンがある。
➀アキレス腱炎,アキレス腱周囲炎
概説
アキレス健炎:腱自体の炎症
アキレス周囲炎:アキレス腱を包むパラテノン(腱組織)の炎症
臨床所見から鑑別するのは困難.
発生機序
ランニングなどによりアキレス腱に繰り返し外力が働くことで発生
高リスク要因
・踵骨軸の外反. 外反扁平足などの足部のアライメント不良
・下腿三頭務の伸長性低下
治療法⇒原則として保存療法
・足底板の挿入
・下腿三頭筋のストレッチ
・運動制限
➁アキレス腱断裂
概説
・スポーツ活動によって発生することが多く、跳躍動作の着地時に好発
・腱の変性が関与するといわれ、中年以降に多くみられる
・腱の断裂によって歩容の変化など機能障害
分類
( 1 )不全断裂
( 2 )完全断裂(多い)
発生部位
1位:断裂部位はアキレス腱狹小部
2位:筋健移行部の断裂
機序
跳躍動作着地時など、アキレス腱に強い張カか加わった際に発生
症状
・受傷時に断裂音(pop音)
・感覚⇒「バットで叩かれたような」 「ポールがぶつかったような」
・アキレス腱断裂部が陥凹、下腿三頭筋に力が入らない
・歩行困難
・つま先立ち不能⇒底屈は可能(長趾屈筋、長母趾屈筋、後脛骨筋)
・断裂部の陥凹⇒時間経過と共に触知困難
徒手検査
トンプソンテスト
治療法
「実技編改訂第2版」p. 390
固定 【長下肢副子を用いた固定(金網副子を用いる場合)】
1)固定材料:金網副子 新聞紙, 絆創膏(伸縮性テープ). 布団綿(青梅綿など)で作った綿包帯.綿花, 巻包帯,紙テープなど.
2)固定肢位:膝関節屈曲位(90°に近い). 足関節自然下重位or最大底屈位
3)固定範囲:大中央部~足MP関節手前
4)金網副子の作製手順
①金網副子を新聞紙で包む
②金網副子の裏表を確認し表側に綿包帯を敷く
➂綿包帯を敷いた金網副子を包帯で巻く
➃できあがった金網副子を固定肢位にあわせて曲げる
・腓骨神経麻痺に注意⇒腓骨頭部を圧迫しないように成形する.
5)固定法
①足関節が自然下垂位になるように伸縮性テープを足底部から下腿部中央後面まで貼付
[・下腿近位部後面から足底部に向かって貼布してもよい. ]
②足関節屈曲(底屈)位を保持するために伸縮性テープは2条貼付する
➂金網副子が正しくあたるかどうか確認し,患肢にあてる
④患肢全体を綿花で包み,金網副子とともに包帯で固定する
・下腿後面の伸縮性テープに変えて前面に合成樹脂製キャスト材などで作製した.足関節届曲(底屈) { に保持するための短下肢副子をあててもよい.
【長下肢キャストを用いた固定(合成樹脂製キャスト材を用いる場合)】
1)固定材料:合成樹脂製キャスト材,下巻き材,綿包帯(褥瘡防止用).
2)固定範囲および肢位⇒金網副子を用いた場合に準する.
3)固定法
①褥瘡と腓骨神経麻痺を予防する目的で,下褥として綿包帯を踵部と腓骨頭部にあてる
②褥瘡・神経麻痺防止用綿包帯を含めて下巻き材で下巻きをする
➂助手に固定肢位を維持させて合成樹脂製キャスト材を巻く
※助手の注意点
・固定作業中,肢位が変化しないよう立つ位置などに注意
・手指でキャスト上から腓骨頭および踵部を局所的に圧迫しないように注意
【短下肢副子を用いた固定】
・長下肢「または長下肢キャストで2週程度固定⇒短下肢副子に固定を変更
・初期から短下肢副子で固定
の2パターンある
整復操作時に装着した前面の副子は. 固定期間中は極力脱着を行わない.
①アキレス断裂部の内外側に. 合成樹脂製キャスト材で健側のアキレス腱形状の陰性モデルにフェルトを接着し作成した局所副子をあてる.
②最後に前面の副子と同範囲の後面の副子作製し包帯で固定する.
固定後の確認
1)神経圧迫の有無(腓骨神経圧迫による障害)
⇒足背部を中心にシビレ感などの感覚異常がないか.
⇒足趾の伸展(背屈)障害がないか.
2)血流障害の有無
⇒足趾の爪圧迫検査で速やかに色が元に戻るか.
3)固定によって圧迫されている部位の有無
褥瘡の危険性⇒腓骨頭部や踵部に金網副子などがあたっていないか確認する.
➂下腿三頭筋の肉ばなれ
概説
・二関節筋である腓腹筋の内側頭筋腹からアキレス健への筋健移行部に好発
・別名:テニスレッグ
30歳以降に発生類度が高くなる.
長距離走などの筋疲労が基盤になる
発生機序
剣道、テニス、バドミントンの踏み込み時
陸上:中距離、長距離
膝伸展位+足関節の展(背屈)で腓腹筋に遠心性収縮で発生.
症状
・腫脹、圧痛:下腿中央部内側
・陥凹⇒断裂があれば出現
・皮下出血斑⇒受傷翌日以降出現することが多い
・足関節の他動的仙展(背屈)強制、抵抗下での自動的屈曲(底屈)⇒疼痛が誘発される
治療法
「柔道整復学・実技編改訂」第2版P400
( 1 )足関節屈曲(底屈)の筋力が低下する.
( 2 )足関節の他動的な伸展(背屈)強制や自動的な屈曲(底屈)を抵抗下で行うと, 損傷部の疼痛増強
固定
1)軽傷
包帯固定のみで十分である.
2)中等傷
伸縮性テープと圧迫パッド,巻軸包帯を用いて損傷部を圧迫固定する.
①伸縮性テープで損傷筋の補強をするように貼付する
②損傷部にスポンジ製の圧迫パッド
➂テープおよび圧迫パッドの上から包帯で固定し完成
4日目⇒テープ張替え
7~10日目⇒除去
3)重症(損傷部に陥凹のあるもの)
断裂端を近づける手技を行い,中等傷と同様に伸縮性テープと圧迫パッドにより圧迫固定をしたうえで, 金属副子などを用い固定
範囲:大腿中央部から足尖部
肢位:足関節最大底屈位
期間:10 ~ 14日包帯固定
(整復の効果については評価が確定していない)
固定後の確認
⇒包帯の緊縛がないことを確認する.
鑑別診断
アキレス断裂
➃下腿部のスポーツ障害
過労性脛部痛(脛骨過労性骨膜炎. シンスプリント)
発生機序
ランニング.ジャンプ.ターン.ストップなどに伴う反復運動⇒下腿後面内側群の伸長性低下⇒その筋群の牽引により脛骨骨膜に損傷や炎症をきたす.
発生要因
足部の衝撃吸収能の低下や, 回内足や扁平足, 膝外反などのアライメント異常
症状,所見
主訴:脛骨内側後縁部に沿った疼痛と圧痛, 運動痛
足関節の伸展時痛, 抵抗運動痛
単純X線像⇒異常所見がみられない
時間の経過した症例では疲労骨折との鑑別が可能である.
治療法
急性期
・原因となった運動の中止とアイシング
・下腿後面内側筋群のストレッチや手技療法を行う
亜急性期
・温熱療法⇒筋のスパズムや腫脹軽減目的
・温熱と同時に下腿三頭筋のストレッチ
・足関節周囲筋の筋力増強訓練⇒疼痛のない範囲で開始
回復期
正しい動きの再獲得を目的としたトレーニングを行う.
注意すべき疾患
➀コンパートメントcompartment症候群
特徴
前方および外側筋区画に発生しやすい.
発生機序
1.急性型
下腿骨骨折, 打撲, 筋挫傷などの外傷による組織の浮腫で, 筋区画の内圧が上昇し循環障害が発生
2.慢性型
ランニングなどの運動に伴い筋区画内圧が上昇
症状,所見
1.急性型
・疼痛(自発痛,圧痛,筋伸長時の疼痛増強)
・感覚障害
・運動障害
・足背動脈⇒触知可能なものが多い
2.慢性型
・運動時の疼痛,圧痛,下腿の緊張感など
治療法
急性型:観血療法
圧迫、挙上⇒筋への血流減少を助長させる可能性
慢性型:運動中止、安静⇒症状消退
➁下腿感染症(蜂窩織炎)
毛穴や傷口から細菌が侵入して、皮膚の深い組織が炎症をおこす感染症
表皮にある、毛穴・汗腺・傷口・やけど・乾燥肌・床ずれ・水虫・湿疹などから細菌が侵入し、真皮や皮下脂肪に到達して炎症・化膿する
症状
・広い範囲に、赤み・痛み・腫れが
・38度以上の高熱
➂下腿骨腫瘍(骨肉腫、孤立性骨嚢腫)
a.骨肉腫
概要
原発性悪性腫瘍でもっとも多い
発生:青少年(10歳代)
好発:大腿骨遠位部、脛骨近位部、上腕骨近位部
症状
・持続又は進行する疼痛・運動痛
・腫脹、熱感
血液検査
・アルカリフォスファターゼ高値
Ⅹ線
骨破壊、溶骨像、骨硬化像、骨膜反応
➃下腿血管障害(静脈瘤)
静脈の壁の一部が何らかの要因で薄くなり、その血管が膨らむことで発病する循環器病
症状
・こむらがえり
・下肢のだるさ
・色素沈着
・潰瘍などの皮膚病変
参考文献
「柔道整復学・理論編」南江堂 改訂第6版
「柔道整復学・実技編」南江堂 改訂第2版
「整形外科学」 南江堂 改訂第3版
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