柔道整復学 理論編 頸部の損傷(骨折・脱臼・軟部組織損傷)
頸部の損傷(骨折・脱臼・軟部組織損傷)
頸椎の骨折
(分類)
➀環椎骨折
➁軸椎骨折
③頸椎骨折
環椎破裂骨折(ジェファーソン骨折)
環椎の弱い部位で4か所骨折を起こす
症状・所見
骨片は左右に分離
開口位の単純Ⅹ線⇒左右の側塊が外側に転位
CTで詳細わかる
治療法
安定例:医科での牽引、安静臥床
肝軸関節不安定例:観血療法で固定
軸椎骨折
1. 軸椎歯突起骨折
アンダーソン分類
Ⅰ型:安定
Ⅱ型:最も多い。骨癒合不良で偽関節
Ⅲ型:骨癒合良好
2. 軸椎関節突起骨折(ハングマン骨折)
症状、所見
首吊りの時に頸部の伸展と牽引力で発生。交通事故の伸展圧迫力あるいは屈曲圧迫力
左右の椎弓根が骨折して、椎体から離開
Ⅹ線像:軸椎関節部突起を上下に走る骨折線
CT像:正確な病態把握が可能
治療法
転位軽度:短期間の安静と外固定
転位高度:頭蓋骨直達牽引(クラッチフィールド)による整復と6週程度の外固定
不安定性残る例⇒観血療法
中・下位頸椎(第3~7頸椎)
分類
・椎体楔状圧迫骨折
・ティアドロップ骨折
・椎体破裂骨折
・棘突起骨折
a頸椎椎体楔状圧迫骨折
発生
第5、6頸椎に好発
椎体の前方に圧迫力がかかり椎体は楔状を呈する
症状
・運動制限、神経症状
・後縦靭帯損傷:少ない
・脊損:少ない
治療法
程度に応じて
ギプス固定:後頭部から胸骨
SOMI装具
高度の圧迫変形⇒観血療法(頸椎固定術)
bティアドロップ骨折
屈曲してる頸椎に軸圧が働き三角骨片が生じ、続いて伸展した際に三角骨片が本体と引き離される。
症状・所見
・頸部痛
・Ⅹ線:椎体前下方に三角形の骨片
・後縦靭帯損傷、脊髄損傷⇒少ない
治療法
・転位なし、軽度:SOMI装具(下顎と後頭部から胸部までの装具)
・後方靭帯破壊例:観血療法
c.椎体破裂骨折
発生
・椎体の垂直方向に働く圧迫力で発生
・特に頸椎軽度屈曲位
症状
・頸部に激痛
・椎体が粉砕
・脊損合併頻度が高い
治療法
神経症状なし:2~4週の牽引と頸椎カラー4~8週
神経症状あり不安定性:観血的に頸椎の固定
d.頸椎棘突起骨折
第7頸椎に多い
(発生)
直達外力:ラグビーなど外傷
介達外力:ゴルフスイングでの急な筋収縮、スコップ作業(clay shovellers fracture)による疲労骨折
症状・所見
・頸部に軽度な疼痛・運動制限
・棘突起の圧痛
・時に異常可動性、軋轢音
・脊損:少ない
治療法
安静臥床
その後頸椎カラー4~8週
頑固な疼痛⇒骨片切除
頸椎の脱臼
環椎脱臼、脱臼骨折
(発生)
交通事故、外傷などで頸部の過屈曲
環椎横靭帯断裂→単独脱臼
歯突起骨折→脱臼骨折
(症状)
単独脱臼:脊損になりやすい。完全横断麻痺で死
脱臼骨折:脊損を免れることが多い
下位頸椎の脱臼、脱臼骨折
片側脱臼:Ⅹ線で見過ごされやすい
両側脱臼:脊損の頻度が高くなる
好発:第5、6椎間、第6,7椎間
症状・所見
・関節突起の前方転位
・完全脱臼⇒椎体の圧迫骨折や椎弓骨折
応急処置
頸椎が不安定な状態にあることを認識し、細心の注意のもと専門医へゆだねる
治療法
両側脱臼:無麻酔下で頭蓋骨直達牽引法により屈曲位に十分に牽引した状態で伸展位に戻すことで整復
頸椎の軟部組織損傷
1.外傷性頸部症候群(むちうち損傷)
交通事故などにおける頸椎損傷機序をいう。
筋、神経、靭帯、血管など様々な損傷が考えられる
➀.頸椎捻挫型
全体の80%を占める。
症状:圧痛、運動時痛
筋緊張:胸鎖乳突筋・前斜角筋・僧帽筋・菱形筋・棘上筋・棘下筋・大胸筋など
二次的に前斜角筋症候群を発生⇒C7、8領域のしびれ
予後:約3週で軽快するが、数か月にわたり愁訴が持続することもある
➁.根症状型
頸椎の急激な過伸展、過屈曲に伴い、椎間孔内外における神経根の圧迫による。
スパーリング、ジャクソンテスト(+)
➂.頸部交感神経症候群(バレーリーウー型)
発生
頸部交感神経の緊張により椎骨動脈神経の緊張
項部痛痛、目まい、耳鳴り、視力障害、顔面・上肢の異常感覚
夜間に上肢のシビレ感
➃.混合型
根症状型と頸部交感神経症候群との混合
⑤.脊髄症状型
頸椎症や後縦靭帯骨化症(OPLL)を伴う場合に発生するケースあり。
脊髄症状:上肢に著明
2.胸郭出口症候群
胸郭出口周囲の解剖
斜角筋隙を構成
・前斜角筋
・中斜角筋
・第1肋骨
※後斜角筋は含まれない
通過
・腕神経叢
・鎖骨下動脈
発生
年齢:思春期以降
性差:女性 やせ型のなで肩に多い
胸郭出口領域(三角間隙、第1肋骨~鎖骨間間隙、小胸筋~肋骨間間隙)を
腕神経叢と鎖骨下動静脈が通過するときに、神経症状や血行障害による症状をもたらすものの総称
圧迫部位による分類
1.斜角筋症候群
前・中斜角筋、第1肋骨間で先天性軟部組織異常(前斜角筋付着部異常、斜角筋肥大など)で圧迫されるものである
また、三角間隙間に先天性骨異常(頸肋、第1肋骨異常など)を認めるものもあり(頸肋症候群)もあり鑑別必要
2.肋鎖症候群
第1肋骨―鎖骨間間隙に後天性骨・軟部組織異常(第1肋骨骨折、斜角筋外傷など)によって圧迫され症状が出現するものである
治療:僧帽筋の筋力強化(なで肩改善のため)
3.過外転症候群(小胸筋症候群)
小胸筋―肋骨間間隙で圧迫され症状が出現する。
原因:猫背により菱形筋筋力<小胸筋筋力⇒肩甲骨の過外転
治療:菱形筋筋力強化、小胸筋ストレッチ
症状
・肩こり、上肢への放散痛
・上肢に疼痛やシビレ感、冷感などの血行障害
・脈管テスト陽性
アドソンテスト:頸椎後屈+患側回旋⇒橈骨動脈の拍動消失
ライトテスト:肩90°外転・外旋位⇒橈骨動脈減弱
モーリーテスト:斜角筋隙を指で圧迫
ルーステスト:肩90°外転・外旋位+肘90°でグーパーを繰り返す⇒運動不能で陽性
エデンテスト:患側上肢を後下方に引き下げる⇒橈骨動脈の減弱
アレンテスト:肩90°外転・外旋位+肘90°で脈をみながら反対に頸椎回旋⇒脈減弱
胸郭出口症候群は捻挫、頸椎症等の鑑別が必要
3 寝違い
発生
長時間不自然な姿勢、寒冷、疲労時の頸椎回旋・肩甲骨運動
症状
➀頸椎運動制限(特に側屈、捻転)
➁疼痛:僧帽筋、菱形筋、胸鎖乳突筋、肩甲上神経部、両肩甲骨間への放散痛
➂筋肉にしこり
Ⅹ線:ストレートネック傾向
治療
・圧痛部を冷やすor温める
・手技、理学療法:牽引療法、頸部と肩甲骨の運動
予後
比較的良好
数日から、数週間で全快。時には数か月疼痛が続くケースもある
鑑別
・頸椎椎間板ヘルニア
・リンパ性斜頸
・悪性腫瘍の頸椎転位
注意すべき疾患
1.斜頸
頭部が一側に傾き、同時に頸部が捻じれ顔面や頭蓋の不均整を伴うもの
先天性筋斜頸が多い
症状・所見
先天性筋斜頸:骨盤位(逆子)分娩などの難産による発生
胸鎖乳突筋の胸骨頭と鎖骨頭の交差部に腫瘤
腫瘤は自然に消失する
2.頸椎椎間板ヘルニア
発生
椎間板の変性で、繊維輪が断片化し髄核とともに脱出するものが多い
頸椎:中高年
腰椎:若年者
分類
Ⅰ型(靭帯内脱出)
後縦靭帯深層と浅層間にとどまるもの
Ⅱ型(後縦靭帯穿破型)
一部が後縦靭帯浅層を破り硬膜外腔に脱出したもの
Ⅲ型(硬膜外遊離型)
硬膜外腔に脱出し断片が遊離したもの
症状・所見
Ⅰ型と頸椎椎間板症(変形性椎間板)との鑑別は困難
Ⅱ型以降を本来のヘルニアという
・障害された神経根レベルに応じた分節性の感覚異常
・深部腱反射の減弱
・筋力低下
・神経根テスト(スパーリングテスト、ジャクソンテスト)
3.頸椎症
発生
加齢に伴う退行性変性疾患である頸椎椎間関節症や頸椎椎間板症などを素因として神経根が圧迫される
症状
・頸部、肩甲骨周囲の筋緊張に伴う安静時痛・運動痛
・片側性の放散痛
4.後縦靭帯骨化症
症状・所見
・東南アジア人に多い
・糖尿病合併
狭窄率が40%以上は脊髄症を起こしやすい
5.頸椎の炎症病変
頸椎の項靭帯の石灰化⇒バルソニー病。病的な意義は少ない
頸椎の癌転位は注意
6.外傷性腕神経叢麻痺
損傷された神経と一致した部位に感覚麻痺と筋麻痺を起こす
発生
交通事故、オートバイ事故、高所からの落下
節前損傷と節後損傷とに大別
麻痺型分類
・上位型(Erb)麻痺
C5、6,7損傷
損傷神経:腋窩神経、筋皮神経、橈骨神経
ウェイターズチップポジション
⇒損傷を免れた正中神経、尺骨神経の影響
上肢:下垂
肘:伸展
前腕:回内
手関節:屈曲
・下位型(klumpke)麻痺
C8、Th1の損傷
損傷神経:正中神経、尺骨神経
手:手内在筋マイナス肢位
Th1の交感神経損傷⇒ホルネル徴候(+)
・全型麻痺
症状・所見
・患側上肢の単麻痺
・ホルネル徴候(+)
・患肢に軸索反射
7.分娩麻痺
出産の際に、胎児の頭または、肩が産道狭窄部に引っ掛かり腕神経叢が牽引損傷を受け、上肢の麻痺をきたす
8.副神経麻痺
発生
後頸三角の外科的操作(リンパ節生検や腫瘍摘出)や切刺創によるもの
外傷性腕神経叢損傷に合併した牽引損傷
症状
・胸鎖乳突筋、僧帽筋麻痺
・肩甲帯の下垂⇒肩甲帯の疼痛
・肩関節運動制限⇒外転
・僧帽筋上部線維の膨隆消失、肩甲挙筋のみが浮き出る
・肩屈曲時⇒肩甲骨外転
参考文献
柔道整復学 理論編 改訂第6版 南江堂
最近のコメント