柔道整復学 理論編 肩部および上腕部の損傷 軟部組織損傷
肩部および上腕部の軟部組織損傷
ローテータ―カフの解剖学
起始 | 停止 | 支配神経 | 作用(肩関節) | |
棘上筋 | 棘上窩 | 大結節 | 肩甲上神経 | 外転 |
棘下筋 | 棘下窩 | 大結節 | 肩甲上神経 | 外旋 |
小円筋 | 肩甲骨外側縁 | 大結節 | 腋窩神経 | 外旋 |
肩甲下筋 | 肩甲下窩 | 小結節 | 肩甲下神経 | 内旋 |
動画「ローテーターカフ」
ローテーターカフの基本動画になります。
1. 筋・腱の損傷
a腱板断裂(必修項目)
概説
・棘上筋損傷が多い
・上肢下垂でもストレス
・肩外転運動(労働)で肩峰下、烏口肩峰靭帯などとの摩擦で機械的炎症による損傷
分類
(1) 完全断裂
(2) 不全断裂(滑液包面断裂、腱内断裂、関節面断裂)
発生
1回の外力での発生と、加齢・変性に加えて腱板脆弱部(大結節から1.5cm近位)に外力が加わり続ける
(1) 肩部の打撲(直達)
(2) 手や肘を衝いて大結節が肩峰に衝突
(3) 投球、投てきによるオーバーユース
(4) 中高年⇒日常の使い方で擦り切れる
(5) 電車のつり革を持っている時の急停車
症状
1. 疼痛
・受傷時痛:受傷時に鋭い痛み。数時間で軽快するが、その後不意の動作に伴う激痛
・運動時痛:外転60°~120°の間に疼痛。肩90°屈曲位で内外旋
・圧痛:大結節
・夜間痛:就寝中痛みで目が覚める
2. 陥凹触知
完全断裂では圧痛部と一致して陥凹触知できるものがある
3. 機能障害
屈曲、外転制限。外転位保持困難
4. 筋力低下・脱力感
小断裂のものでは筋力低下を認めないものもあるが、筋委縮の進行に伴い筋力低下も進行する。
上肢の脱力感を訴える
5. 筋萎縮
棘上筋、棘下筋
検査
(1) 有痛弧徴候(ペインフルアーク)
(2) クレピタス(挙上時雑音)
(3) インピンジメント徴候
(4) ドロップアームサイン
(5) リフトオフテスト
治療法
長期にわたり夜間痛のあるもの、筋委縮・脱力、拘縮の進行⇒手術も検討
b上腕二頭筋長頭腱損傷(必修項目)
概説
・構造⇒急な走行変化で機械的刺激を受けやすい
・40歳以上は加齢的腱の変死が起きやすく頻度高い
・上腕横靭帯断裂⇒二頭筋長頭腱が小結節を乗り越え脱臼するケース
発生
(1) 肩、外転・外旋(スポーツ・仕事)の繰り返しで小結節との摩擦
(2) 重量物の挙上によって上腕二頭筋が腱の張力を越えて収縮
(3) 緊張した上腕二頭筋に突然の強い伸長力
分類
(1) 上腕二頭筋長頭腱断裂
・結節間溝部断裂
・筋腱移行部断裂
(2) 上腕二頭筋長頭腱炎
(3) 上腕二頭筋長頭腱脱臼
※小結節骨折に伴い脱臼を生じることもある
症状
(1) 断裂音と共に激痛、腫脹、皮下出血斑の出現
(2) 上腕二頭筋の筋腹が近位の腱性の索状物を触れる
(3) 腱炎や、腱鞘炎の場合、結節間溝部に圧痛を認めることが多いが、著明な可動域制限はなく、投球時に上腕二頭筋にそって放散痛
損傷初期:疼痛、夜間痛、屈曲力・握力低下
2~3W:疼痛軽減、筋力低下もある程度回復
※病態により変わる
検査
(1) ヤーガソンテスト
(2) スピードテスト
2. スポーツ損傷
a. ベネット損傷
概説
・野球歴の長い選手で特に投手に多い
・肩関節窩後下方の骨棘(三頭筋長頭起始部、関節窩下縁の骨棘)をさす
(症状)※無症状のケースも多い
➀コッキング期、フォロースルー期に肩後方の疼痛、脱力感
➁肩関節後方に圧痛
③外転・外旋強制で肩後方に疼痛
➃肩関節の内旋可動域が減少する
(治療法)
投球中止。
冷罨法、固定、提肘をして運動を制限
b. SLAP損傷
概説
投球動作による繰り返しの負荷により肩関節の上方の関節唇(上腕二頭筋長頭腱付着部)が剥離・断裂する
(発生)
障害
・投球時の外転・外旋強制発生
・リリース期、フォロースルー期での発生
・上腕二頭筋の牽引による発生
外傷
・肘伸展位、肩外転で手を突き上腕骨頭が上方に衝かれ損傷
・腕を引っ張られて損傷
・柔道で袖をつかんでいる状態で技を返され受傷
分類
Ⅰ型:上方関節唇、上腕二頭筋長頭腱の剥離はないが上方にすり減りfrayingを認めるもの
Ⅱ型:上方関節唇と上腕二頭筋長頭腱が付着部から剥離したもの
Ⅲ型:上方関節唇、上腕二頭筋長頭腱の剥離はないが、上方関節唇がバケツ柄様に断裂しその断裂端が関節裂隙に転位したもの
Ⅳ型:上方関節唇のバケツ柄様の断裂が上腕二頭筋長頭腱へ広がり、断裂片が不安定化したもの
(症状)
・疼痛・不安感
コッキング~リリースにかけて、上腕の挙上回旋運動時に関節唇が引っ掛かりが出現するため。
(治療法)
保存療法(フォームの改善・筋力強化)⇒2~3か月。
保存で効果なければ手術も検討(Ⅱ型以上は手術対象になりやすい)
不安感⇒筋力強化(腱板、肩甲骨周囲)で改善
c. 肩峰下インピンジメント症候群
腱板、肩峰下滑液包が烏口肩峰アーチに繰り返しの衝突し、腱板の炎症、変性、肩峰下滑液包炎を生じる病変
棘上筋に多い⇒肩峰と上腕骨頭に挟まれるため
(発生)
投球⇒最大外旋から内旋に向かう時にこすられる
クロール、バタフライでも発生
肩峰骨(肩峰先端の未癒合の骨化核)
ニア―の分類
第1期:(急性炎症期)
好発年齢 25歳
外傷で棘上筋腱に出血、浮腫が発生
局所安静⇒消退
第2期:(亜急性炎症期)
好発年齢 25歳~40歳
外傷を繰り返し、腱および滑液包の線維化が生じ慢性腱炎となる。
一時的に消退も使いすぎで再燃
治療
基本は保存療法
痛み取れなければ肩峰下滑液包切除、烏口肩峰靭帯切離
第3期(腱断裂期)
好発年齢 40歳以上
棘上筋腱、肩峰下滑液包、烏口肩峰靭帯に不可逆性変性⇒腱板断裂
治療
前肩峰形成術、腱板縫合術
症状
・肩挙上時痛(外転90°付近)
・引っ掛かり感
・筋力低下
・夜間痛
検査
➀有痛弧徴候(ペインフルアーク)外転60~120
➁インピンジメント徴候
ニア―:肩甲骨固定で肩外転
ホーキンス:外転外旋位で内旋
➂ドロップアーム⇒症状が強くないと出現しない
治療
急性期
・冷罨法
・疼痛誘発動作禁止
症状改善なければ⇒対診
d. リトルリーガー肩
10歳~15歳の野球投手に好発
上腕骨近位の骨端成長軟骨板の炎症、骨端線離開(疲労骨折)
ソルターハリスⅠ型損傷
症状
・投球時の疼痛
・部位⇒肩全体に存在
・圧痛⇒骨端成長軟骨板の高さ(大結節より下)
腱板障害との鑑別必要
3. 不安定症
a. 動揺性肩関節
概説
肩関節に動揺性を認める不安定症
ポイント
・外傷、反復性ではない
・肩関節の構成骨の異常、肩甲帯筋に明らかな異常なし
・両側性
・若年者、女性、オーバーアームパターン選手は病的ではない
(発生)
・持ち上げ動作、上腕の牽引動作、スポーツ活動による使いすぎなど軽微な外力
原因
・関節窩の形成不全
・コラーゲン代謝異常
明かな原因は不明
4. 末梢神経障害
a. 肩甲上神経障害
概説
肩関節の運動に伴い、肩甲上神経が肩甲切痕部で上肩甲横靭帯に絞扼されたり、ガングリオンにより圧迫を受けて肩関節の疼痛の原因になる
スポーツによる発生
バレーボール、テニスなどオーバーアームパターンを反復して行うスポーツ選手
解剖学的特性
肩甲上神経の棘下筋に向かう運動枝が肩甲棘基部外側縁を骨に接して回る為、この部分での摩擦により棘下筋萎縮を起こす
b. 腋窩神経絞扼障害
概説
クアドリラテラルスペースを通過する腋窩神経が圧迫を受けて生じる
発生
クアドリラテラルスペースの打撲、出血
症状
➀肩外側の感覚障害
➁三角筋の萎縮、筋力低下
5. その他の疾患
a. 五十肩
概説
一般に五十肩と呼ばれる疾患は、加齢や過労による肩関節構成体の変性をもとにして発生する、原因がはっきりしない肩関節の疼痛と運動制限をきたす疾患。また肩関節周囲炎も同様の疾患をさす。
以前は腱板損傷、石灰性腱炎、肩峰下滑液包炎、上腕二頭筋長頭腱炎など含む総称だったが近年の画像技術の進歩によりこれらを除外した誘引のない肩関節の痛みを伴った運動障害をいう。
発生
40歳以降で特に50~60歳に多い。
症状
急性に現れるものや徐々に現れるものがあり一定はしないが、特徴は次の様になる
➀肩の変形、腫脹、熱感なし
➁筋萎縮ないか、軽度
➂結滞動作、結髪動作、水平伸展動作困難
病期
1. 炎症期
2~12週程度
・痛みがもっとも強い時期で肩の前方あるいは深部に痛みを感じ、上腕に放散痛が出現。
・昼夜痛みが続き夜間痛で睡眠障害
・衣服の着脱困難
2. 拘縮期
・3~12か月と長期に及ぶこともある
・運動制限⇒外旋、内旋、挙上、水平伸展
・痛みは炎症期に比べて軽減するが、寝返りで痛み目が覚める
・温熱有効
3. 解氷期
拘縮が緩解する時期で、日常生活や保温の工夫で徐々にかたの痛み改善
b. 石灰沈着性腱炎(旧教科書)
概要
腱、滑液包、腱鞘滑膜等にアパタイト結晶が沈着し炎症を引き起こす。肩に好発
40~60歳女性に好発
症状
・突然夜間に始まる激しい疼痛
・肩を全く動かせない
・熱感
治療
2~4週間で改善 時には6か月以上
激しい疼痛を訴える場合は疑うべき
c.変形性肩関節症、変形性肩鎖関節症(旧教科書)
概要
OAは加齢現象の一つではあるが肩に発生することは少ない
変形性肩関節症は、外傷後や反復性肩関節脱臼の結果、二次的に起こる
症状
肩関節の疼痛、腫脹、可動域制限。ときに夜間痛
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